GRist
GRist 小林紀晴さん
こんにちわ、ちっちです。
今回のGRistは小林紀晴さんです!
小林さんには2011年度のリコーフォトコンテストの審査員を前回GRistの内田ユキオさんと共に務めていただきました。
クリスマスツリーやイルミネーションで彩られはじめたある日、六本木にある小林さんの事務所へお邪魔させてもらいました。
■アジアと写真
ちっち(以降 ち):実は学生時代、小林さんの『ASIAN JAPANESE』《1995年、情報センター出版局》に刺激されて、バックパッカーをしながら写真を撮っていたんです。
小林(以降 こ): やばいですね(笑)。そういう話を時々聞くんですけど、冷や汗でますね。
ち:いえいえ、バックパッカーにはちょっとしたバイブルでした!他にもアジアに関する本をたくさん出されていますが、なんでアジアだったのかなと思って・・・
こ:子供のころからインドやシルクロードなんかの番組が好きだったんですよね。理由はないんだけど、ただ、日本とは大きく違う感じなのに、アジアの宗教的な背景とか、つながっている感じがある...っていうんでしょうか。糸をたぐっていく感じがよかったのかな。
ち:ポートレートを中心に撮られていますが。
こ:写真を始めたころから、風景より人を撮るのが好きでした。アジアの場合はカメラを持っていると、黙っていても人が寄ってくる。町中に座ってるおじいさんを撮るのが特に好きですね。
ち:旅にはバックパックで行かれていたんですよね。当時はフイルムカメラだったでしょうから、荷物は相当多かったんじゃないですか?
こ:最初にアジアに100日間くらい行ったときは、カメラは大きいのが2台とコンパクト1台。フィルムは...240本くらいかな。洋服なんかはほんのちょっとだけで、必要になったら現地で調達です。レンズは50㎜と28㎜。当時は28㎜で撮ることが多かったです。
荷物は目を離したスキやちょっと撮影してる間に盗られることがあるから、かなり気を遣っていました。出発するときはカメラが大事なんですけど、あるときから逆転してフィルムが大事になってくるんです。バスなどの中ではフィルム用のバッグを抱きしめてました。途中で撮ったフィルムを長野の実家に送ったりもしましたけど、送るのもリスキーですし。
それがいまや、フィルムは持たなくて済むようになった。すごいことですよね。
■GRについて
ち:カメラはいつも持ち歩く方ですか?
こ:普段はカメラは持ってないです。
ち:どんな時にGRを使っていますか?もしよかったらセッティングを教えてください。
こ:やっぱり旅行に行くときですね。軽くて小さいので。マイセッティングに3つ登録してて、MY1はメモ用に、MY2、MY3はRawでカラーとモノクロを登録してて、気分で撮り分けてます。全て-0.3EVです。
ち:GRの気に入ってるところは?
こ:丈夫なところかな。ポケットに入るところもいい。オプションは何もつけないです。出っ張ってかえって邪魔になってしまうので。取り出し易いから、電車の中から外を撮るときに使います。最近、4×5のカメラを持ち出して長野の実家の近くなんかを撮ってるんですが、4×5って結構不自由というかフィルムなので面倒くさいというか。なので4×5の脇でGRでスナップとか撮るのに使ったりもします。
あと、見た目が変わらないっていうところが僕は結構好きです。もちろん進化してるんですけど、「一見、変化がわからない」ところがいいです。
■小説と写真
ち:小林さんは文筆家としても数々の著書を出版されていますが、「文筆家」と「写真家」を切り替えるときのスイッチのようなものってありますか?
こ:スイッチっていうようなものはないですね。自分は、その切替には時間がかかる方なんです。筆が乗ってきはじめると、もうずっと原稿を書いていたくなる。逆に撮影が3-4日続くと、もう書ける感じじゃなくなってしまって。丸一日ぽっかり空いても書けないんですよね。
もちろん、片方が乗ってきたときにはもう片方が完全に切れるってことはなくて、どこかでつながってるけど...内にこもる感じと外に出ていく感じっていうのかな...。内にこもって、その中で喜びとかを見出してくると、ずっとやっていたいっていう気になるんです。撮るときと書くときとでバランスが取れた時が一番いいんですけどね。
ち:ストーリーが先ですか?写真が先ですか?
こ:どっちでもない感じです。タイトルとかキーワードが重要というか。最初からカチッと決まっているっていうのはあんまりなくて、漠然としたイメージやキーワードを持ってやっています。
ち:文章を書くのは早いほうですか?
こ:がーっと書いて何度も直すのが多いですね。だから時間がかかる。写真もたくさん撮るほうです。せっかちなんで(笑)
■新書「写真と生活」
ち:先日、「写真と生活」が発売されましたね!こちらはどんな本ですか?
こ:いろんな分野で活躍中の写真家12人の方へのインタビュー集です。雑誌「日本カメラ」に連載していたものをまとめました。
ち:同業者へのインタビューとなるわけですね。質問し難いこともあったのではないかと思いますが、実際はどうでしたか?
こ:書くときは大変でしたけど。考えた以上に楽しかったですよ。
写真家の、写真に対する評論とか写真に関する考え方とかは、記事などで目にしますが、「普段はどんな生活をしてるの?」「実際はどうやって生活してるの?」っていう普段あまり語られることのない日常の部分を聴いてみたい、と思って企画しました。これって、実はみんなすごく興味持ってるんだけど、なかなか聞きにくいところでもあって。僕も、「この人、どうやって生きてんのかなぁ~」って思うことあるんです。
つまり「写真で生活していくって、どういうことだろう?」っていうのを書いてます。
ち:このインタビューを通じて、小林さんご自身が得たものなどありますか?
こ:みなさん、本当に真面目に、真剣に写真のこと考えている、ということを改めて感じました。いい刺激を受けました。
ち:この本をどんな人に読んで欲しいですか?
こ:写真家を志している若い人に読んで欲しいです。写真学校では教えてくれない内容なので。
■好きな場所
ち:では、そろそろ小林さんのプライベートというか、写真以外の質問を(笑)。今、もし長い休みが取れたらどこに行きたいですか?
こ:ニューヨークに行くでしょうね。昔、1年くらい住んでて。時々行きたくなるんです。秋とか冬のNYが好き。あの寂しい感じが。
ち:NYの本も出されてましたよね。NYで何したいですか?
こ:ぼーっと。
ち:ぼーっと?!
こ:はい、ぼーっと。NYでも日本でもコーヒーショップでぼーっとするのが好きです。旅先でもコーヒーとかお茶を飲んで、ぼーっと街行く人を眺めてるのが一番幸せな時です。NYは美術館やギャラリーも多くて、その中にコーヒーショップもあるし、一人でも楽しめるのがいいです。
ち:写真は撮らないんですか?
こ:ニューヨークは単純に遊びに行く感じ。撮りたいとは思わないです。逆にアジアなんかに行くと撮りたくなります。
ち:小林さんの写真のスイッチはアジアにあるんですね。
■これから撮りたいもの
ち:最近はどんな写真を撮られていますか?
こ:最近は日本。これまでも撮ってきたんですけど、地元の長野、実家のある諏訪をまた撮ろうかなと。4×5のカメラで撮り始めて、しばらくそれをやろうかなと思ってます。
ち:この先、どんなものを撮りたいというのはありますか?
こ:聖なる地を撮ってみたいですね。これまでも行ったことはありますが、少し異なる視点で撮りたい。諏訪を撮り始めたのもそうです。諏訪盆地って全体が聖地なんですけど、住んでいたときにはあまり気に留めなかった。いまは、昔とは違う目線で見れるようになって、地元に新たな発見を感じることが多くなりました。
ち:スピリッチャル好きな私としては興味津々です。楽しみにしています!
■カメラとは
ち:最後に、小林さんにとってカメラとは?!
こ:自分をいろんなところに連れてってくれる道具です。旅もカメラがなかったらそんなにいってなかっただろうし、撮りたいから行くっていうのもあって。旅とカメラは相性がいいし、なくてはならないものですね。
ち:本日はありがとうございました。
事務所からの一枚です。いろんな季節、いろんな時間に、窓からのこの風景を撮っています。特に冬は空気が澄んで、張りつめた写真が撮れます。
■取材を終えて
もの静かな雰囲気の小林さんですが、一つ一つの質問にゆっくりと丁寧に答えてくださったのがとても印象的でした。また、ふとした時の笑顔がとても穏やかで素敵な方でした。
小林さんの事務所には旅の産物?と思われるものや彫刻などがたくさんあり、高校時代に掘ったという坂本龍馬の木彫りを見せてくれたり、親戚にもらったという蜂の巣をみせてくれたり、とても楽しい時間を過ごすことができました。また、現在撮影している写真もたくさん見せていただき、これがいつか本か何かになって出てくるのかなと思うと、作品ができる過程を見ているようで感激でした。
個人的には取材時のBGMがとっても心地良くて小林さんの雰囲気にもピッタリで、何の音楽か教えてもらってくれば良かった!と後悔しています(笑)
■「写真と生活」
写真家小林紀晴が、12名の写真家 (平間至、野村佐紀子、亀山亮、藤代冥砂、金村修、宮下マキ、高木こずえ、ERIC、山田敦士、本城直季、瀧本幹也、石川直樹) にインタビュー。
リブロアルテ/2011年11月30日発行
定価:1,000円(税込)
■プロフィール(ホームページより抜粋)
1968年長野県に生まれ。東京工芸大学短期大学部写真科卒業。
新聞社カメラマンを経て、1991年よりフリーランスフォトグラファーとして独立。1997年に「ASIAN JAPANES」でデビュー。1997年「DAYS ASIA」で日本写真協会新人賞受賞。2000年12月 2002年1月、ニューヨーク滞在。現在、雑誌、広告、TVCF、小説執筆などボーダレスに活動中。写真集に、「homeland」、「Days New york」、「SUWA」、「はなはねに」などがある。他に、「ASIA ROAD」、「写真学生」、「父の感触」、「十七歳」、「写真と生活」など著書多数。
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