GRist
GRist 飯塚達央さん
こんにちは、社員Nです。今回のGRistは飯塚達央さん!
北海道東川町を拠点として、旭川のスタジオ運営、ブライダル写真を撮りながら、カメラ雑誌などでも写真を発表するなど、日々精力的に活動されています。
今回は、初代GR DIGITALからの生粋GRistでもある飯塚さんの魅力に迫ります。
N:飯塚さんと初めてお会いしたのは2005年冬。IT PLUSの飯塚さんのGR DIGITALレビュー記事を拝見し、その素敵な写真と丁寧な解説がとても嬉しくて、会いに行ったのでした。
もう9年ほど前のことですが、それはちょうど飯塚さんが東川に居を構えた年でもあったのですね。
I:そうですね、北海道に住んで今年で17年になりますが、上富良野、美瑛の後、ちょうど東川に引っ越した年でした。
初めて会った頃の飯塚さん
N:それが縁で、CX2やGXR A16のカタログ撮影をお願いしたり、CP+のステージをお願いしたりと、お世話になってきました。写真集「GR SNAPS」や、RINGCUBE(現リコーイメージングスクエア銀座)での写真展「Sense 12人の表現者たち」にも参加してくれて、GRistとしてはもっと早く紹介したかったところです。そんなリコーのカメラの仕事の中で、一番印象に残っていることはありますか?キツい割に安い、とかいうのは抜きで(笑)
I:僕にとって、カメラメーカーの仕事はリコーが初めての体験だったので、いろいろな驚きが多かったです。例えば、「カタログの写真って本当にそのカメラで撮っているんだぁ」とかから(笑)ベータ機での撮影になるので、使用上の制約などもあるし、日程もタイトで天候を待つ余裕もないので、いつも一発で決めなければという緊張感はありましたね。最初はJPEGの圧縮率の設定間違えたりとかのミスもあって焦ったりしたこともあったなぁ。
N:本当は、1ヶ月くらい自由に撮ってください、とかできるといいんですけどね。開発と発売日程から、いつもぎりぎりタイトなスケジュールになって無理をお願いしてしまいます。
I:でも、そういうことも含めて貴重な体験でした。中でも、やはりCP+でのプレゼンテーションが印象深いですね。元来、大勢の前で話すのは得意ではないし、めちゃくちゃ緊張しましたけど。ノリノリでやらなくちゃと意識し過ぎて、後で、知り合いからセールスマントークみたいだったと言われたりもして、どのくらい期待に応えられたのかわかりませんが。
CP+での飯塚さん
N:いえいえ、すごく好評でしたよ。なんといっても素敵な写真が一番説得力あるんです。また、機会があれば是非お願いします!
さて、飯塚さんは、子供の頃から写真が好きで、インテリアメーカーで5年間仕事をする間も、時間を作ってバイクでツーリングしながら撮影をしていたんですよね。そして、何度か旅した北海道の魅力に吸い寄せられるように、富良野の写真館のスタッフに応募し、プロカメラマンとしての人生をスタートさせた。最初は不安もたくさんあったでしょう?
I:それはもう不安はたくさんありましたけど、そういう意味では今だって同じようなものです。正直、まだ昔を振り返って感慨にふける余裕なんてないです。ただ、ブライダルの仕事はそこそこあったので、写真でなんとかやっていけると、とても楽観的に考えてもいました。まあ、そのくらいじゃなければ、フリーランスなんてやっていけないです。
■生命感や存在感を記録していきたい
N:北海道には多くの写真家が活動されていて、素晴らしい風景や動物の写真を撮られています。飯塚さんの写真は、単なる風景写真、ネイチャーフォトという言葉で説明できない、もう少しミクロな視点を感じるんです。人肌感なのか?枯れ葉一枚にもなにか人の息を感じる写真というか、僕はそこが飯塚さんの写真の魅力であり、たくさんの人が魅せられるところだと勝手に思っているのですが。どんなことを意識して、日々写真を撮っていますか?
I:基本は被写体を尊重すること、その上で、その被写体が持っている生命感や存在感を撮りたいと思っています。それは人物だけでなく建物も風景もです。北海道イコール広大な風景と連想しますけど、広大であるほどリアリティはなくなっていくものです。僕は、身近な風景や自分の足下を撮ることで、その背景にある、自然の懐の深さを感じられる写真が撮りたいんです。その辺が、ミクロな視点と感じさせるのかもしれないですね。
N:廃屋や懐かしい駅前の古い商店の写真など、ノスタルジーを感じる写真も多くあります。それも被写体の生命感に通じるものですか?
I:写真は記録ですから、時間の経過ともに懐かしさを感じるのは、写真がもっている宿命だと思います。なので、ノスタルジーは狙うのではなく、自然に滲み出てくるものだと思っています。僕は現代アートを目指しているわけではないので、そういうスタンスでこれからもやっていきたいと考えているんです。
N:写真の中に、北海道というローカル性はいつも意識していますか?
I:北海道の町は、まだたかだか百数十年の歴史です。その中で、開拓→繁栄→衰退という、時間の流れが圧縮された場所も残ってます。人の営みが圧縮している場所としてのローカル性は北海道ならではだと思うし、そこに居を構えている以上は、それを記録したいと思っています。なので、函館の発電所や空知の炭坑跡地などに足を向けるんです。
■ブライダルは役立つことを再認識するための原点
N:ブライダルフォトは写真家のスタートでもあり、現在も旭川に「フォトシーズン メゾネットハウス」というスタジオを作って精力的に取り組んでいますね。僕は、以前、草原写真館の写真を見させてもらったとき、目から鱗でした。ブライダル写真というのは当事者の幸せの記録という極めて個人的なものだと勝手に思っていたのですけど、知らない人まで幸せにできるブライダル写真を見たのは初めてだったから。ブライダルフォトは飯塚さんの原点といっていいのでしょうか?
飯塚さんWEBサイトのサンプル写真より
I:人に喜んでもらえる、人の役に立つ写真、ということを最初に意識したのがブライダルフォトです。被写体に喜んでもらうことで、写真をやっていてよかったと再確認できる、そういう意味では僕の原点と言っていいと思います。そして、それを他の人が見ても欲しくなる写真にしていくことを目標にして、日々仕事をしています。
N:なるほど。僕も、もっと早く飯塚さんと知り合っていたら、飯塚さんに撮ってもらいたかったな(笑)
さて、以前、水道橋での個展のときに販売した「白い夜」というブックレットは写真も印刷もとてもよかったです。写真の発表の方法は、写真集や写真展、雑誌などいろいろありますが、一番自分にあっているものはありますか?今後やってみたいことなどは?
I:人の役に立つ、という意味で、僕はメーカーのカタログ写真や雑誌の製品レビューなど、直接的に役立てる仕事はとても好きなので、これからもチャンスがあればやっていきたいです。写真展は刺激的で勉強になるけど、ややもすると褒め言葉しかないのは要注意かな。写真集は今一番やりたいもので、以前から撮り貯めている「駅前ふるさと」をまとめようと今取り組んでいます。
N:それは楽しみ!さて、カメラについてもお聞きします。いろんなタイプの製品を使っていますよね。
I:機材にはいつも興味を持っています。場所柄、なかなか新製品に触れるチャンスがないのが残念ですけど、余計に新しいカメラが出ると、使ってみたくなるのかもしれないですね。カメラを変えるとモチベーションがあがります。なので、興味がわいたらまず使ってみる、というのを繰り返しています。ハッセルもローライも、デジイチもミラーレスもコンパクトも、自分はこれだけとか決めたくはないので。
■GRとの付き合い
N:そんな中で、GRは長く使い続けていただいています。新型GRの良いところ、改善して欲しいところを教えてください。
I:なんといってもポケットに入る高画質でしょう。僕は、基本、撮影のときにカメラバッグは持たないので余計にこの携帯性はありがたい。今は、ハッセルとGR、この組み合わせ、最強ですよ。
N:気になるところは?
I:やや緑が鮮やか過ぎるところかな?北海道の今頃(8-9月)の樹々は、新緑の鮮やかな緑に比べると、だんだんかすれた色合いになってきますが、ちょっと鮮やか過ぎるかなと感じることがあります。レタッチでちょこっといじれば問題ないレベルなんですけどね。強いていえば、その辺かなぁ。
N:なるほど、参考にします。では、飯塚さん流GRのセッティングについて教えてください。
I:RAW+JPEGで、JPEGではレトロモードでホワイトバランスは曇りで使うことが多いです。以前は白黒TEでよく撮ってましたが、今はカメラ内RAW現像で簡単にできるので、現像で対応してます。
N:ここで北海道ならではの質問を少し、北海道の光、についてどう感じますか? 空気感というのがやはり違いますよね、光の温度というか。
I:空気がクリアなので、抜けのよいスカットした写真は撮りやすい。あと、太陽の高度が違うので、光の印象も違います。その辺は、写真に出ますね。
N:少し初歩的なテクニック話になってしまいますが、以前、北海道の広大な風景を撮りたくて広角レンズで撮影したけど思ったイメージにならなかったことがあります。かえって35mmとか50mm、時にはもう少し望遠で撮影した方がしっくりくるんですけど。
I:丘の景色を撮るので広角レンズ買ってきました、という人、結構います(笑) 北海道は手前に建造物などがないので遠近感が出しにくいですから、広角レンズはかえって難しくて、望遠で圧縮した方が絵になりやすいことも多いんです。
N:なるほど。そんな飯塚さんが、好きな写真家とその理由は?
I:まずはエリオットアーウィット。彼のようなユーモアの視点を忘れないようにと。次にセバスチャン・サルガド。被写体の尊厳を大切にすることを再認識させられます。そして瀬尾明男さん、写真の力がどういうものかがわかります。「啄木キネマ」という写真集は必見ですよ。
N:それは要チェック! では、今、写真以外で興味のあることは?
I:中古でコペンを買ったんです、軽自動車のオープンカー。これがめちゃ楽しい。メーカーのモノ作りの醍醐味が凝縮されている感じがして、それがハンドルを握ると伝わってくる。わくわくできるプロダクトに久しぶりにであった感じです。カメラもあれもこれもできるものでなく、こんなものがいいと思います。GRはそれに近い存在ですね。
N:ありがとうございます。そういってもらえると嬉しいですけど、まだまだです。そんなカメラになれるよう頑張ります。最後に。飯塚さんの目指すもの、夢は?
I:いつかは美術館で個展をしたいです。それから、肖像写真家としての道を探求していきたい。やはり基本はポートレイトだと思うので。
N:その時は、必ず初日に見に行きますから、是非実現させてください!
北海道、空知地方にあった炭鉱施設跡。給水塔と思われる。閉山後45年が経ち、表面の風化はまぬがれないものの、未だに威風堂々した出で立ちで草木を従え存在している。
■インタビューを終えて・・・
決して声高に主張するわけではないのですが、自分の写真に対する姿勢というものをいつもしっかり見据えている、控えめで実直な写真家さんという印象です。その真摯なスタンスが写真にも出ているのではないでしょうか?足下から、身近なものからでも、大きな世界とのつながりを見つけられる、そしてそれが人の役にたつ何かになること、という言葉が残った取材でした。飯塚さんの魅力に触れるには、この記事よりもご本人のWEBサイトの写真を見るのが一番!ぜひご覧下さい。
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■プロフィール
飯塚達央(いいづか たつお)
1968年大阪市生まれ。小学校の時より家のそばを走る鉄道に興味を持ち、4年生で自分の一眼レフを所有し鉄道写真に打ち込む。静岡大学人文学部経済学科卒業後、企業に就職し、趣味として風景写真を撮り始める。5年で退職し、北海道の風景写真を撮りたくて1996年に移住する。富良野市の写真館に勤務し、職業として写真を撮るようになる。1998年よりフリーランスとなり、学校写真や家族写真、結婚式の撮影を行いつつ、北海道の風景や人々の営みを撮り続けている。2011年に株式会社フォトシーズンを設立し、旭川市内に写真スタジオ「フォトシーズン」を構える。ブライダルやキッズ、ファミリーフォトを中心に地元に根付いた仕事を行う一方、雑誌や写真展などで全国的な活動を行っている。
http://tatsuoiizuka.com/
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