GRist
GRist 佐々木啓太さん
今回のGRistは、佐々木啓太さん。自ら "街角写真家" と名乗り、身近なシーンの中で見逃されがちな景色を切り撮ってきた佐々木さんですが、実は現行GRで初めてGR使いに。写真講師や雑誌執筆など多彩にこなす佐々木さんに、街撮りや写真に対する考えを聞いてみました。
野口(以下:野):街角写真家という肩書きをつけたのは、いつから、どんなきっかけだったのですか?
佐々木(以降:佐):スナップとかストリートフォトというと、なんとなく人ありきのイメージがありますが、僕は街の中の片隅にある、普段気づかれずに忘れられがちな風景に光を当てていきたいと思っています。街を撮りはじめた当初、自己紹介代わりに、そんなスタイルに名前付けてみようと思ったんです。
野:なるほど。実は以前、鬼海弘雄さんの写真集「東京夢譚」を見ていたら、自宅から数軒先の家の屋根の写真を見つけたんです。屋根の上のプランターを無造作に並べてある光景なんですが。毎日通っているのに、一度もカメラを向けようと思ったことがなかったんですね。
佐:はい。見慣れ過ぎてる故に、見過ごしてしまう。そんな景色は社会に溢れていると思います。
野:そういう見過ごされがちな光景の中でも、佐々木さんの心にひっかかって、シャッターを押すものとは、どんなものなのでしょう?
佐:うーん、僕はテーマを持って撮り歩くわけではないし、何と聞かれると難しいのですが、よく撮るのは「自転車」「写り込み」「影」などですね。
野:いつも身近にあるものですね。
佐:あと、仕事で地方に行く機会が多いこともあり、「ふるさと」とか「なつかしさ」「日本らしさ」を意識することが多くなりました。
野:そんな佐々木さんが、影響を受けた、好きな写真家というと?
佐:ロベルト・ドアノー、エドワード・ウェストン、エルンスト・ハースなどかな...
野:ドアノーはどこに惹かれますか?
佐:子供の写真がうまいです、演出が自然というか。僕は写真はリアルでなくてもいいと思っているんです。
野:演技も写真のうち?
佐:写真の"真"は真心の"真"、撮り手の真心が写るのが写真なので、演出の中にも伝えたい思いがある。逆にリアルを引き立てるために演出をしてもいいと思ってます。
野:演出させる中にも、撮り手のリアルが写る、ということでしょうか?
佐:そうですね、だから、演出させるなら徹底的にやりきらせればいい。大げさにいうと黒沢映画の世界のような感じかな(笑)。
野:GR DIGITALはいつから使っていただいていますか?
佐:実は、これ(最新のGR)が初めてなんです。
野:ああ、そうなんですね。今迄使っていなかったのはなにか理由がありますか?
佐:僕は、街角を始めたとき、EOSに100mm単焦点だけ付けて、それだけで1年くらい撮っていたんです。その後も、40mmとか50mmくらいを多用してました。元来ボケを活かす写真が好きだったし。なのでGRは知っていたけど使うことがなかった。
野:それが新型GRを使ってみようと思ったのは?
佐:GRのコンパクトなボディにAPS-Cサイズのセンサーの組み合わせというのに触手が伸びました。極めつけは、GRの発表会に行って、レンズ性能のよさに惚れて、使ってみたいと思ったのが直接の動機です。
野:ありがとうございます。28mmはどうですか?
佐:広い画角に入ってくるたくさんの情報を、いかにシンプルにまとめるか?が難しくも面白いところですね。
野:GRはどんな風に使われていますか?
佐:エフェクトを多用してます。
野:どのエフェクトを?
佐:ハイコントラスト白黒とクロスプロセスが好きですね。
野:たまに、エフェクトは邪道だ、みたいに言う人もいますが?
佐:僕はモノクロをやっていたこともあって、目で見たものを違うものに変えるエフェクトにまったく抵抗がないというか、むしろ積極的にそれを楽しんでます。
野:佐々木さんは、写真の講師をしたり、講評をしたりする機会も多いと思いますが、どういうことを教えていますか?
佐:まず最初に「うまくなるのはあきらめましょう」と言います。
野:みんな、うまくなりたいのに(笑)
佐:一般的に、うまい写真というのは強い写真です。強い写真は、構図などのセオリーがあって、どうしても似たようなものになりがちです。
野:パターンができてしまうということですね。
佐:はい、それじゃつまらない。なので、あえて組み写真を撮ってもらいます。僕自身が、写真をまとまりで見せるスタイルでもあるし。
野:それは、いきなりハードル高くないですか?
佐:2枚の組写真は比較的作りやすいですよ。ただ、3枚となると難しくなります。3枚目になにを加えるか?悩んで選んで、また撮りにいく。その繰り返しが、自分を見つめることになります。
野:うーん、3枚組み写真ですか。やってみようかなあ。
佐:お薦めします。写真の楽しさが広がるはずです。
野:ところで、仕事柄、いろんな新製品を試す機会も多いと思いますが、どんなカメラに魅力を感じますか?
佐:はじめの印象があまり良くなくても、握ったときによいと感じることがあります。そして、使っていると、作っている人がどれだけ写真を撮っているか?というのが伝わってくることがあるんです。そんなカメラが好きです。
野:今年の予定、これからやってみたいことは?
佐:写真展はやっていきたいです。あと写真集。
野:まとまりで見せる佐々木さん、やはり写真展や写真集をこれからもたくさん見せてください。楽しみにしていますね!
最後に、恒例のお気に入りの一枚ですが、組み写真を重視している佐々木さんに、3枚2組の写真を提供いただいたので、紹介します。
街をカッコ良くするのが街角写真の基本。簡単にカッコ良くするならモノクロが便利でさらにハイコントラスト白黒にするとコントラストも上がるので強さをだしやすい。一番上は新橋、真ん中は横浜の大さん橋、最後は新宿と撮影地がバラバラでもポイントになる人の物語がつながっているように感じながらまとめた3枚。
「sunset red」と呼んでいる「クロスプロセス/イエロー」をカスタマイズしたイメージ。いつでも夕方の色みを再現できるので気に入っている。自分のイメージを再現するためにデジタルエフェクトも積極的に活用するのは、フィルム時代イメージを再現するためにプリント作業が欠かせないモノクロが中心だったからだと思う。一番上は銀座、真ん中は東京のどこか、最後は自宅近く。街をドライブしながら見つけた風景。そんなイメージでまとめた3枚。
■取材を終えて
3枚目になにを選ぶか?を繰り返しながら自分を見つめ直すのが面白い、という言葉が印象的でした。気さくでイケメンな佐々木さんの街角写真を、これからも楽しみにしたいと思います。組み写真、やってみようかな。
■プロフィール
佐々木 啓太(ささき けいた)
1969年兵庫県生まれ。街角写真家。日本写真芸術専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。現在は『街角写真家』という肩書きをつけて活動中。雑誌での執筆をこなしながら作品作りに励んでいる。
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