GRist
GRist タカザワケンジさん
こんにちは、野口です。
今回のGRistは、写真評論家・ライターのタカザワケンジさんです。タカザワさんとは、2006年発売のコンピレーション写真集「GR DIGITAL BOX」(東京キララ社)に参加していただいてからのお付き合い。田中長徳さんに紹介していただいたのでした。本人も写真が大好きで、取材に旅行に、いつもGRを肌身離さず持ち歩いてくれている、生粋GRist。GRistとしては初の、写真評論家の登場です。
■評論家の視点
野口(以降:野):今日、タカザワさんに一番聞きたかったのは、「写真評論家は写真のどこを見ているのか?」です。
タカザワ(以降:タ):本の世界では小説、ノンフィクション、エッセイと違うように、写真にもたくさんのジャンルがあります。
野:はい、報道、スナップ、コンテンポラリーとか。
タ:はい、ですから、その写真が、それらのどこの文脈で評価されようとしているかで、判断基準が変わってくるんです。ですから、評論は、ある意味、その写真の置き場所を考えてあげて、撮影者がどういうところに自分の写真を持って行きたいと思っているかに関して判断する、ということでもあります。
野:写真のポジショニングを見てあげるということですか?
タ:そう、写真には絶対的な価値基準があると思っている人がいるんですが、そういうことはないんです。すごく詩的な文章をジャーナリズムとして発表したら、想像だらけで事実と違うということになるし、逆に事実でガチガチの文章を詩の世界に持って行っても潤いがないと言われるのと一緒で、写真も置き場所によって見られ方がだいぶ変わってきます。
野:なるほど、でもアマチュアの人は、自分の写真のジャンルや置き場所って、あまり意識していない人が多いんじゃないですか?改めて聞かれると悩んでしまいそう。
タ:だから、講評を頼まれたときには、だいたい人生相談に近くなりますよねぇ(笑)
野:あなたは何がしたいの?から始まるわけですね(笑)ポジショニングが定まったら、次はどうなりますか?
タ:例えばアンドレア・グルスキーの撮ってる写真と自分が撮っている写真は、表面上はあまり変わりがありません。テクニックは別としても、同じような場所から同じものが撮れるから。
野:これなら俺でも撮れるぞ、みたいな?実はそんな簡単ではないんだけど(笑)
タ:でも、その中に違いはあって、それが何かを説明するのも評論家の仕事の一つです。
野:その違いは、どうやって見いだすのですか?
タ:それは、ある一定の量を見ていくなかで、見えてくるものなんです。
野:量を見て審美眼が養われるわけですね。ただ、写真は意味を後付けしやすいですよね?たまにずるいなって感じる時もあるんですけど。
タ:確かに、一点の作品だけならそうかもしれませんけど、コンテンポラリーな表現においては、作家の積み重ねてきたものを評価する必要があって、そういう見方をすると、作品の強さという面でやはり違いは出てくるものなんです。
野:強さですか。
タ:作家の生き方そのものの評価、ともいえます。
野:一点勝負だとプロとアマの差が出ない、またはヘタしたら無数のアマに勝てないので、文脈とか生き方とかにいかざるを得ない、ということはないですか?
タ:そういう見方をするのも自由だと思います。でも、「一枚の写真のインパクト」の影響が長続きするかは疑問で、情報過多の時代にはいずれそれだけでは忘れられていくものが多いと思います。
野:なるほど。瞬発力や出会い頭だけでは長続きしないということなんでしょうか。ところで、量を見ることで審美眼を養うとのことですが、見たい写真がたくさんあり過ぎて困ってしまうんですが?
タ:ベーシックな意味では、歴史上の名作をフォローするのが基本ですね。それをもとに、現代の表現を見て行く。
■プロ作家、プロ作品への視点
野:プロ作家の作品の見方は、アマチュア作品のときとは異なる?
タ:基本的に、作家が表現しようとしていることを、自分に引きつけて解釈しようと思っています。
野:対決ではなく、寄り添う感じですか。
タ:評論という仕事の中には、AとBのどちらがいいと判断する側面も確かにありますけど、今の世の中ではそこはあまり求められていないだろうな、と思うんです。
野:それは何故ですか?
タ:表現が多様で、同じ線上で評価できないことが多いから。例えば、スナップショットと三脚立てて撮る写真のどっちがいいか?は、もはやあまり現実的ではないとか。
野:確かに、最近はもう、演出と非演出でどちらがいいか?なんて論争は聞きません。
タ:作家の伝えようとしていることの中で、まだ言葉になっていない部分を補ってあげる。それによって、なるべく多くの人に伝え理解してもらうことの方が重要なんじゃないかなと。
野:そこはよくわかります。見る人は結局自分の経験した価値の中でしか見られないから、初めての体験をすると戸惑ってしまうことが多いです。
タ:そこは、僕がライターの仕事もしていて、インタビューする機会も多いから、ということもありますけどね。
野:評論家でも別のタイプもいますよね?
タ:はい、人によっては作品だけを見て優劣の判断を好む人や、違う文脈で写真を紐解くことが得意な人とか、様々です。でも評論家の数が多くないから(笑)
野:確かに、固有名詞ですぐあげられる。
タ:もう少し増えて、もっといろんな読み方が出てくるといいんですが。
■最近の傾向
野:最近の写真の傾向をどう見てますか?
タ:多様化の幅がますます広がっていて、それぞれにやっている人が増えていると思います。
野:多様化が加速している?
タ:昔のように「写真界」みたいなものがはっきりない、というか。写真界の判断で良い悪いにならなくなってきました。
野:お墨付きがなくても成立するようになった。
タ:はい、以前は、合成は写真じゃないとか言われて、そこで否定されたらもうダメだった。でも、昨今は、写真を好きな人たちがおおらかになってきたというか。多様化が進んで、簡単に切り捨てられなくなってきた。
野:「なんでもありでいい」はアート表現としてはわかりますが、やはり写真らしさ、他のアートではなく写真だからできること、に期待してしまいます。
タ:「写真であること」に疑いがないようでは、僕はジャンルとして衰退するだけだと思っています。
野:そこに評論という仕事の役割もある?
タ:はい、ある視点からその作品の意味や成り立ち、歴史的社会的ポジションをはっきりさせることだと思います。そうした中で、普遍性のある写真(名作、傑作)と、そうでない写真とがおのずとはっきりしてくるんです。
野:現代アートになると、途端に難解になります。(笑)
タ:すぐに腑に落ちちゃうのはエンタメで、わからないから調べたり学んだりしようと思うわけで、だから深いし、知的喜びがあるわけです。
野:楽しむための教養も求められますね。
タ:美術で言えば、普通の人は印象派止まり、せいぜい20世紀のシュルレアリスムまでで、デュシャン以降はかなり見る人を選びますね。写真もそこに入ってきているけど、でもわかりやすい写真も同時にあって、そこが写真のポピュラリティなんでしょう。
野:そういうとこも幅が広い。
タ:もっと、ばりばりコンテンポラリーな写真賞とかあった方がいいくらい。オランダの写真雑誌「foam」とか、MOMAの若手作家特集なんか、完全にそっち方面です。
野:そんなに日本は保守的ですか。
タ:はい、若い作家がどんどん海外に出て行くと思いますね。
野:写真の表現方法についての流れは?
タ:動画やインスタレーションやデジタルメディアとか、まだまだいろんなカタチで拡散していくとみてます。
野:一方でカメラの市場はシュリンクする傾向にあるのも事実です。
タ:評論の立場で言えば、写真が危機になる方が、そこから生まれてくる価値というのがあって面白い。揺り戻しは必ずあるし。
野:シャッター数は確実に増えてるわけ、ストリートビューで写真集が作られたりしてます。
タ:はい、だから、新しい価値やムーブメントが起こる予兆は感じますね。
■注目の作家
野:今、この人が面白い!という作家は?
タ:まずは、山谷佑介さん。いまどきスナップショットを撮っている若者なんですが、「ground」という作品では、クラブの床を撮影した大きなプリントをクラブの床に貼ってそこの上で酒飲んだり踊ったりした後のものを作品として展示しました。ストリートを撮っているのと、そのストリートを足で踏まれたものをオブジェとして提示するというとこが、コンテンポラリーで面白いなと思います。
野:実験的ですね。
タ:実験といえば、伊丹豪さんも面白いです。縦位置スナップショットをデザイナーに渡してバラバラにするとか、撮った後のことをいろいろ考えている人なんです。
野:後処理の表現方法は、これからもどんどん多様化していきそうですね。
タ:それから、富谷昌子さん。昨年末に、僕が写真集『津軽』の編集と解説をさせてもらったんですが、日本写真の伝統を継ぎつつ、ブレのない姿勢で作品を作っている写真家で、是非みなさんに見てもらいたいです。
■これからの写真への期待
野:タカザワさんとしての写真への期待は?
タ:写真は、アンセル・アダムスの時代に、技術的にも美学的にもある程度完成しました。その延長で、現代を撮っているセバスチャン・サルガドみたいな人も素晴らしいけど、やはり現代を生きている僕らにしたら、もうひとつ捻って欲しい、踏み出して欲しいと期待しちゃうんです。そういう美しい写真だけで世界は表現しきれない、ということを見たい、見せて欲しい。
野:「今」だからこそ、写真にできることが何かを発見していきたいと。
タ:先ほどもでましたが、写真はよくも悪くも理屈を後付けしやすい。でも、それは逆にいえば、撮った後でも色々考えられる、考える為の道具としてとても優れたものだとも言えるわけです。
野:なるほど。
タ:だから、撮ったら自分でもよく見て、人にも見せる。そこから何かが見つかって、世界が拓けていく可能性があるんです。
野:撮りっ放しはもったいないですもんね。
タ:はい、撮りっ放しになってもいいけど、少し時間が経ったら、見返してみるのがいいです。
野:ありがとうございました。
■おまけ
タ:GRについて話さなくていいんですか?
野:あ、じゃあなんかお願いします(笑)
タ:GR、最高ですよ、展覧会の記録、内覧会とか。前は一眼も併用してたけど、今はこれだけで仕事が出来てしまいます。
野:ありがとうございます!
タ:GRで取材すると、相手がGRユーザーで、話が盛り上がることも多いですよ。
野:これからもご愛用ください。今後の予定などでお知らせなどありますか?
タ:東京藝術学社で、7月16日から赤城耕一さんと「カメラ選びから始める写真講座」(全5回)をやります。
野:名機のウンチクから実用テクや撮影実習まで盛りだくさん。赤城さんの名調子を堪能できる濃い講座になりそうですね。
■お気に入りの一枚
カンボジアのトゥクトゥク乗って。いつでもどこでもポケットから出してシャッターボタンを押せる、GR最高です。
■プロフィール
タカザワケンジ
写真評論、文芸書評、インタビューほか。1968年群馬県前橋市生まれ。「アサヒカメラ」「写真画報」「野性時代」「メンズノンノ」ほかに執筆。『Study of PHOTO 』(ビー・エヌ・エヌ新社)日本語版監修。富谷昌子写真集『津軽』(HAKKODA)編集と解説。東京造形大学非常勤講師。
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