GRist
GRist 金村修さん
こんにちは、野口です。
今回のGRistは金村修さんです。夕刊紙を駅構内に配送するアルバイトの休憩時間を利用しながら街の写真を撮り続け、2000年に史上2番目の若さで第19回土門拳賞を受賞。同年「トップランナー」(NHK)、翌2001年には「情熱大陸」(毎日放送)にも出演。カメラ雑誌の講評も人気となり、現在も写真学校の講師や、ワークショップを開催するなど活躍しています。今回は、そのワークショップの場所となっている神保町のギャラリーALTERNATIVE SPACE The Whiteにお邪魔しました。
■GRのDVD、Zineが出る!
野口(以降:野):GR、めちゃくちゃ使い込んでくれている、と聞きました。
金村(以降:金):それはもう、毎日、撮り続けています。中毒になりますね。
野:嬉しいです、ありがとうございます。
金:今、それでDVDを作ってるんですよ。GRで撮った静止画と動画に音をつけたものなんだけど、結構面白いものになりそうなんです。
野:写真は何枚くらい?長さはどのくらいになるのでしょう?
金:4000枚くらいで、ざっと15分程度かな。
野:それ、すごい早送りになりますね?
金:1枚0.5秒くらいで見せようかなと。もうちょっと早い方がいいかな、0.2秒とかね。とにかく、プリントして展示する以外の方法を探ってみたいんですよ。GRを使って、その可能性があるな、と感じたんです。
野:発売はいつ頃ですか?
金:今のところ、5月2日を予定してます、ネットでも購入できますので。
野:じゃあもうすぐですね!本の予定もあると聞きましたが?
金:超分厚いZine(個人出版の印刷物)みたいなものを作ってみようかなと思ってます。手作りで3冊くらい、いわゆるアーティストBOOK。ザラ紙の裏表に印刷して、滲みや裏写りがたくさんあるような。それは5月くらいには出したい。
野:DVDも本も、量で見せていくアプローチなんですね。楽しみだなあ。
■個性はディティールに宿る
野:金村さんはワークショプでどんなことを教えているのですか?
金:うーん、まずは個性を否定するところから、かな?(笑)
野:写真に"らしさ"は不要だと?
金:思想や感性は機械が決める、とも言ってもいいです。見る人はあなたの個性なんて見たくないんです、写ってるものが見たいんだということがスタートです。
野:主役は被写体だ、というのは言葉では理解できても、そこをいかに自分らしい作品にするか?を求めてきた人には、いきなりガーンですね(笑)。
金:そんなに個性が欲しいなら、絵とか描けばいいじゃんと。個性なんか、黙っててもディティールに出ますから。個性を否定されることに危機感を持つ人もいますけど。
野:それは写真の本質的な捉え方としてとてもよくわかりますが、金村さんはいつ頃からそのような考えに至ったのでしょう?
金:若い頃、音楽をやってたんです。ベース楽器を担当していたんですが、ベースってリズム楽器です。
リズムに個性出したらダメなんですよ。決まったビートを刻まないと怒られちゃうから。癖はもちろん出ますけどね。
■ポエム化する写真
野:自己表現、オリジナリティ、スタイルを見つけたい人はたくさんいて、そういう作品作りを教えるワークショップもたくさんあります。
金:だから、写真がポエム化してしまうんですよ。
野:ポエム化かあ、わかる気がします。ブログやFacebookとかが加速させたかもしれませんね。
金:でもポエム的な写真は日本では1960年代からあって、それが海外でも受けたのも事実で。誰かが、武者小路実篤的とも言ってたなあ(笑)。
野:もっとリアルで生々しいもの、ということでしょうか?
金:デジタルって、ポエムとは真逆のものでしょう? 写真は生き方だとも言えて、写真スタイルではなくその人のスタイルが写真なんです。
野:自分の生き方をぶつけていくということでしょうか? 岡本太郎の言葉、「芸術は生活を豊かにするのではない 押さえようもないモノを吐き出すことだ」というのに通じそうですね。
金:そう、あれは1950年代だけど、あれから芸術は何も変わってない と先日も知り合いと話したばかりでね。
■鈴木清との出会い
野:影響を受けた写真家は?
金:鈴木清さん。最初に写真を見たときは、ぶれてるしぼけてるし、ある意味で衝撃でしたけど(笑)。
野:でも何かを感じた?
金:鈴木さんが看板屋をやりながら写真を撮っているのを見て、写真を職業にしなくてもいいんだなと気づきました。
野:なるほど。
金:写真そのものというより、写真との向き合い方で影響を受けましたね。
■デジタルの可能性
野:GRで写真を量産するということについて教えて下さい。
金:デジタルはスピードじゃないかな、と思います。
野:コンセプトやテーマもいらないと?
金:それはたくさん撮った後で考えればいいんです。自分の思想や感性なんてカメラが決めるんだし。
野:そこまで言い切っちゃいますか?(笑)
金:そう、だからスマホで撮っている人はスマホの感性になっていくんじゃないかな。
極端な話、写真は人知を越えている。誰が優秀かっていうと、開発者が一番優秀でしょう(笑)。
野:うーん。
金:スマホは写真じゃないとか、そういう古い考え方の人がまだいるんですよ。昔はカラーだって否定されていたんだから。
野:オートフォーカスも最初は否定的でしたよね。
金:写真を見せるってことにこだわり過ぎてるかも。見せなくてもいいんじゃないかと。
野:見せない見せ方って?
金:高速で流すとか、鍵かけちゃうとか。
野:なるほど、そこからDVDという発想につながるのですね。
金:デジタルを使った見せ方をもっといろいろ考えてみたいですね。
野:インタラクティブなものとかは?
金:よく、「触ってみてください」というような展示があるけど、あーいうのは嫌いです。非人間的、非個性的なカタチを見せて行きたい。
野:GRはこれからもガンガン使っていただけそうですね。楽しみにしています!
~取材を終えて~
ミュージシャンと話をしているような独特なリズム感のある方でした。語り口とかだけでなく、思考のリズムというか。取材の中で、「アフリカ系アメリカンはエンジン音でもビートが刻めるんですよ」という話も出ましたが、金村さんの写真の魅力は、塊にしたときに響いてくるビート感なのかも、と改めて思いました。DVD、Zineの制作をしながら、4月23日からは銀座ニコンサロンで写真展「Ansel Adams Stardust(You are not alone)」も始まります。しばらく目が離せないですね。お楽しみに!
■プロフィール
金村修
1964年東京生まれ。写真家。
東京綜合写真専門学校研究科在学中の92年にロッテルダム写真ビエンナーレに招かれて以後、国内外で個展、グループ展多数。96年には、ニューヨーク近代美術館写真部門より、世界の注目される写真家6人の一人に選ばれて展示。
97年、日本写真家協会新人賞。2000年、史上2番目の若さで土門拳賞受賞。
http://www.kanemura-osamu.com
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