GRist
GRist 田尾沙織さん
「作家になりたいのですが、作品を読んでくれませんか?」「私が読む必要はない。君が朝起きたときに、小説を書くこと以外頭になければ、君はもう作家になっている」(リルケ)今回の取材で、このフレーズを思い出しました。
53人目のGRistは田尾沙織さん。2001年20歳最年少で第18回ひとつぼ展グランプリを受賞し、その後、雑誌やCM、CDジャケットなどの仕事を増やしながら、個展や写真集にも取り組んできました。順調に実績を重ねていく中で、突然の渡米。NYでの1年半の生活を終え、昨年から日本での活動を再開した田尾さんに、中目黒のカフェで、ゆったりとお話を聞いてきました。
■「好き」だけで突き進んできた写真
野口(以下:野):活躍中に、突然NYに行った理由は? 海外に活躍の場を求めたとか?
田尾(以下:田):いえ、いろんなことを学びたかったんです。自分で望んだ道ですが、このまま仕事が増えてそれに応えていくという流れの中で、今だから学んでおくべきことや、受けておくべき刺激とか、そういうものが必要だと思っていましたので。
野:NYではどんなことをしていたのですか?
田:英語の勉強しながら、ギャラリー巡りしたり、アーティストと交流したり。現代アートとかも好きなので、そういう写真以外のアーティストと話しあうこともありました。
野:多くの刺激を受けたと思いますけど、印象に残っていることを、一つ教えてもらえますか?
田:たくさんありますけど、例えば、エリオット・アーウィットさんのトークショーを聞きに行った時に、彼が会話の中で口癖のように「Fortunately=幸運にも」という言葉を使っていました。「どうして、頻繁にFortunatelyと言うのですか?」との質問に、アーウィットさんは「だって写真家はラッキーであるべきだからね」と答えました。80才を越えた彼のその言葉が、とても説得力があって、腑に落ちました。
野:20歳でひとつぼ展グランプリ受賞してから、順調に写真の仕事を増やしていますが、田尾さんの強みってなんでしょう?
田:自分ではよくわからないんです。一つだけ言えるのは、10代の頃から写真が好き過ぎていました。とにかく寝ても覚めても写真のことしか考えられない。そんな多感に時期に、あなたの写真いいよ、と褒められて、その言葉を信じ込んで、そのまま突き進んできた、という感じなんです。
野:その後、「ストロベリーピクチャーズ」に写真家として入るわけですが、代表である写真家 菅原一剛さんも写真を評価してくれましたか?
田:菅原さんに写真を見てもらった時に言われたのは、写真がいいとか悪いとかでなく、「あなたは本当に写真が好きなんだね」ってことでした。なので、アシスタント募集してたんですが、写真家として入れてもらうことができました。
野:それはある意味凄いですよね。写真家に写真を見てもらおうとする人は、みな相当な写真好きです。そういう人をたくさん見てきた菅原さんに、そう感じさせたというのは、田尾さんの写真に対する熱気のようなものが、写真に出ていたんでしょう。そして、おそらく同じ人種の匂いを感じたんじゃないかな。
田:学生の頃から、変わっていると言われてました(笑)。写真が好き過ぎて、学校にはカメラしか持って行ってなかったし。友達と歩いていても、急に写真撮り出すから、「振り向くといつもいない子」だと。本当に、その頃から、寝ても覚めても写真のことばかり考えていたんですね。
写真集「ビルに泳ぐ」より
■「旅」の中で撮る写真
野:僕が好きな旅雑誌のひとつ「TRANSIT」をはじめ、旅行誌の仕事が多いような印象がありますけど?
田:そうですね。前に子供服の仕事をしたときは子供服の雑誌の仕事ばかり増えたり、男性誌の仕事やると男性誌の仕事ばかりになったりとか波はあります。でも、旅がとても好きなので旅の雑誌の仕事は大好きです。
野:単発の仕事が多いのでしょうか? 連載の仕事は?
田:ちょうど来月から「MilK」という子供ファッション誌で見開きの連載が始まります。
野:ということは、子供の写真?
田:旅先で撮ったスナップです。好きだから子供が入っているものも多いので、そこからセレクトする形になります。
野:以前、デジタルカメラマガジンの連載企画で、GRを持って五島列島を旅したものが、書籍「旅とカメラと私」(2011年刊)にもなりました。
田:あー、あの時は寒かったぁ(笑)。12月に教会を撮りに行きました。すごく楽しかったです。いつでも、どこか旅に行きたい気持ちがあります。というか、いつも旅の中で写真を撮っている感じです。
野:でも、写真集「ビルに泳ぐ」「通学路」などは、とても身近なテーマです。
田:そうですね、いろんな所に行くのに、結局そこに戻ってきてしまいます。距離は関係ないかも知れない。自宅の近くの毎日通る道ですが、変わっていく都市の中で、木造のアパートとか、子供が道路にチョークで絵を書いているような、消えかかったなつかしさが混ざり合っている状態を、撮りたくて。今ではもう、だいぶなくなってしまっているんですが。
■田尾沙織カラー
野:田尾さんの独特の色調とトーンは、ちょうどそんな東京の新しい変化とノスタルジーが混ざり合っている色なのかな?
田:学校で1年目はモノクロから始めて、2年目の作品を作る段階でカラーと中判でいこうと決めました。当時はエグルストンの色に憧れてました。だから今より、ポラロイド風のアンバーがかった色が多かったです。マゼンタとイエローが強いような。
野:その傾向は、今でも少しだけ残っている感じがします。好きな作家は?
田:須田一成さん。あと菅原さんの写真集「青い魚」を10代の頃買って、暗い中にも青い色がちゃんと出ている、あの青が印象的で好きになりました。
■meet GR
野:仕事のメインカメラは?
田:ハッセルブラッドがメインで、あとはマキナやブロニカなども。フィルムの仕事が多いです。
野:デジタルが増えているのに珍しいですよね。
田:そういうイメージ付いちゃってるかも。旅にはGR持って行くし、デジタルを避ける気はないですけど、フイルム好きなので。
野:GRとの出会いは?
田:高校生の時に、森山大道さんが使っている憧れのカメラでした。男子が使っているのを見て、「いいな、いいなぁ〜ちょっと貸して!」っていうカメラ。
野:旅の相棒だけでなく、GRでの仕事も、もっとやってくださいね(笑)。
■田尾沙織2014
野:今年はどんなことをしていきたいですか?
田:今もやってはいますが、自分で企画を考えて提案する仕事を、もっと増やしていけたらと思ってます。それから、本が好きで、友人のADとZineみたいなものを作ろうと話をしているところです。それも、今年実現できたらいいな、と思っています。
野:それは楽しみです。これからも、幸運をたくさん引き寄せる写真家になっていってくださいね。
■お気に入りの一枚
メキシコ,ユカタン半島にに点在しているセノーテと呼ばれる洞窟
〜取材を終えて〜
東京を、世界を、都会を、自然を、尋常でないほど写真が好きというエネルギーで泳いできた写真家。好きだけで写真家にはなれない、と誰もが思う。でも、熱病のような写真愛を継続できるというのは、一つの才能だと言ってもいいのではないでしょうか? 優しく暖かな語り口からだけではわからない、その突き抜けた感情を、写真を通してもっと多くの人にも見て欲しいと思いました。
■プロフィール
田尾 沙織(たお さおり)
1980年東京都生まれ。2001年第18回写真ひとつぼ展グランプリ受賞。2007年個展『LAND of MAN』2013年個展『ビルに泳ぐ』やグループ展にも積極的に参加。写真集『通学路 東京都 田尾沙織』『ビルに泳ぐ』(PLANCTON)雑誌、広告、CF、映画スチールなど多方面で活動中。
http://www.taosaori.com
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