GRist
GRist 中藤毅彦さん
こんにちは、野口(社員N)です。
2014年GRistのスタートを飾るのは中藤毅彦さんです!
中藤さんは、都市のモノクロスナップ撮影をメインとしながら、学校などの講師やギャラリー運営などにも精力的に取り組んでいます。昨年のGR Tours 2013では仙台の講師に、年末はリコーイメージングスクエア銀座での写真展「Secret」にも参加していただきました。そうそう、写真集「GR SNAPS」(2007刊)でも、横浜のモノクロスナップで参加してくれているんです。今回は、中藤さんたちが運営する四谷のギャラリー「Gallery Niepce」(ギャラリーニエプス)にお邪魔して、取材をさせていただきました。
■ギャラリーを運営すること
野口(以下:野):ここ、Gallery Niepceは、2003年から運営されて10年以上になるのですね。そもそもの狙いはなんだったのですか?
中藤(以下:中):自分の写真を思い立った時にいつでも展示出来る場所が欲しかったという事でした。
野:なるほど、でも今の中藤さんなら、どこでも展示してもらえそうですね。
中:いやあ、例えばメーカーギャラリーだと、半年前に提案して審査を通ってと、なかなか現在進行形の作品を即、実験的に発表するというわけにはいきません。
野:このギャラリーでは、ワークショップなどイベントも行っていますけど、今後どのようなギャラリーにしていきたいと考えていますか?
中:この辺、四谷から新宿界隈にも、自主ギャラリーがずいぶん増えました。それによって、写真を見るルートができて、寄っていただく機会が増えた、という相乗効果があります。ただ、一方で、運営上難しい面も増えてきます。まあ、できる限りは今のような形で続けられればいいかな?という感じです。
■中藤流ストリートスナップ
野:中藤さんと言えば、モノクロストリートスナップですが、街やストリートの何に興味を持ち、どんなことに反応しているのでしょう?
中:僕は文京区の後楽園近くで生まれ育って、都市の中にいるのが当たり前でした。でも、NY、ロンドン、パリなどを見て歩いて、それぞれの都市が持つ空気や匂いの違いを、強く感じて、興味を持つようになったんです。
野:外を見て、改めて「都市」を意識したと。
中:そうですね。東欧に行くと、その濃厚な空気がまた面白いんですよ。
写真集「Winterlicht」より
野:そういう都市を歩きながら、スナップする魅力は?
中:その場に自分を委ねて、偶然性に身を任せて、現実と関わりながら、記録だかアートだかわからない、そんな魅力でしょうか。
野:今の時代、写真の世界で世に出るために、ストリートスナップで挑むのはとても難しいといわれます。斬新なコンセプトやテーマ、新しい技法で、新しいジャンルを作ったり、物議を醸すくらいの個性的なメッセージの方が、プロモーション的には賢い。そういう方があざとくても批評対象になりやすい。そこをあえて、真正面から取り組んでいますよね。
中:難しいところでやっていると、自分でも思います。(笑)でも、それが自分の体、リズムに合っているんです。ドキュメンタリーな部分を大切にしたい、けど、報道でもないという領域。
シリーズ「Street rambler-New york」より
野:中藤さんの写真は、すごく"写真くさい写真"と思います。トーンとしては、モノクロでハイコントラスト、粒状感が強く出た作風を一貫していますが?
中:いろいろ試行した中で、それが、生理的に一番しっくりくるんです。
写真集「Enter the Mirror」より
野:ビジュアルアーツの芸術写真専攻のときに森山大道さんにも教えていただいたとのことですが、その影響もありますか?
中:影響は大いに受けてると思いますが、この作風自体は、それ以前からなんです。最初は、ずいぶん批判されたりしましたけど(笑)、写真集「Winterlicht」を出した頃くらいから、だんだんそれもなくなって、写真自体を見てもらえるようになりました。
野:スタイル論を飛び越えるだけの力が、写真にあったということでしょう。森山さんから教えられたことで一番印象に残っていることは?
中:ひとつは、量は質であること。もう一つは、頭でなく体で撮れということ。細胞がザワザワした時にシャッターを押すんだ、ということです。
シリーズ「Deep Havana」より
■ワークショップや撮影会
野:中藤さんは、ワークショップや撮影会もたくさん行なわれています。どんなところにポイントを置いて教えていますか?
中:僕の場合は、あまり言葉で説明したりしないんです。その分、一緒に歩いて、自分が撮っている姿を見てもらって、そこで撮ったものを見せて。そういう繰り返しの中から、いろんなことを見つけてもらう、という感じでしょうか。
野:参加者から一番よく出る質問は?
中:「人を撮る時のコツは?」ですねぇ。
野:で、なんと答える?
中:「コツなんかない」と。(笑)あえて言えば、開き直るというか、どうなるかわからないけど撮ってみるしかないんだ、と。
野:そこも、正面突破、中藤さんらしく、真っ向勝負ですね。
■GRとの出会いと最新GRまで
野:最新のGRはいかがですか?
中:スナップショット用として、究極まで進化したカメラだと思います。
野:それは嬉しい。スナップシューター中藤さんから、最大級の褒め言葉をいただきました。
中:でも、あえて言えば、簡単に撮れ過ぎてしまうことを、写真家としては注意しなくちゃいけないと思います。
野:撮れ過ぎてしまう?
中:撮影の時の"気構え"みたいなものがなくても、そこそこの写真が撮れてしまうんです。そういうのは、カメラに撮らされているというか。そして時に、それが写真に現れてしまうんですね。
野:どうしましょう?
中:自分で、撮影に臨む気持ちの切替スイッチをちゃんと入れることです。今は、技能的にはプロとアマチュアで差がなくなってきていますので、なにを提示できるか?が重要ですから。
野:28mmという画角はどうですか?
中:僕は35mmが基本で、そこから28mmと50mmの幅で使います。その点、GRはクロップモードがあるので、まさに思い通りに切り替えられるので、最高ですよ。
野:よく使う設定は?
中:ISO1600固定でシャープネスMAX、粒状感を大切にします。RAWは時折使うくらいで、JPEGだけの時もあります。
野:後処理は?
中:Adobe Photoshopのプラグインソフトで、Nik Softwareの「Silver Efex Pro」を好んで使います。フィルム現像の作業ベースなのがお気に入りです。
■これからの活動(計画、目標)
野:今年の計画など教えてください。
中:2013年にパリで展示したことがきっかけになって、2014年も夏から秋にかけてパリで個展を3つやる企画があります。新作も出しますし、その辺の準備で忙しくなりそうです。
野:海外が中心の活動になりそうですね。
中:はい。パリは知名度とか関係なしに、写真そのものがどうか?で、買ってくれたり個展をやらないかと声をかけてくれたりと、反応が日本とはずいぶん異なります。だから厳しい面もあるけど、逆に面白いです。
~取材を終えて~
粗粒子モノクロストリートスナップは、どんなに良い写真でも"森山大道風"とまとめられがちです。中藤さんは、あえてそこに真正面から挑み、そんなスタイル論を乗り越えた上で、存在感を示してきました。その極意や奥義を探っても、「やるべきことをやるべき方法でやっているだけで」とサラリと言われる中藤さん。聞き手の拙さを棚に置かせていただいた上で言うと(笑)、巧い言葉で中藤ワールドを分析解説するのは、もっと後でもいいのではと感じました。「たくさん写真を撮り、たくさん写真を見る、それを反復しながら写真家としての足腰を鍛えている人」それで充分ではないでしょうか?「話しもいいけど、そんなことより早く写真撮りにいきませんか」と誘われそうな、そんな雰囲気の方です。そして、きっとめちゃくちゃ楽しい撮影になるでしょう。久しぶりに、職人のような魅力を持った写真家さんにお会いして、そんな風に感じた楽しい取材でした。
雨の夜、渋谷のスクランブル交差点にて。2013年。
■プロフィール
中藤 毅彦(なかふじ たけひこ)
写真家 1970年東京生まれ。 早稲田大学大一文学部中退、東京ビジュアルアーツ写真学科卒。東京造形大学、日本写真学院非常勤講師。東京、四谷三丁目にてギャラリー・ニエプスを運営。モノクロームのストリートスナップを中心に作品を発表し続けている。個展・グループ展、国内外にて多数開催。写真集に「Enter the Mirror」「Winterlicht」「Night Crawler」「Sakuan, Matapaan-Hokkaido」「Paris」がある。第29回東川国際写真フェスティバル特別作家賞受賞。コレクション 清里フォトアートミュージアム。
http://takehikonakafuji.com/
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