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GRist 糸井重里さん<後編>
こんにちは、野口(元 社員N)です。
さあお待たせしました、GRist糸井重里さん<後編>のご紹介です。
いよいよ写真やカメラの話題に突入していきますよ〜
【後編】 カメラ&写真の巻
■手品おじさん
野口:さて、それでは、写真の話に突入します。『ほぼ日』のコンテンツには、写真系多いですよね。「写真で深呼吸」「写真がもっと好きになる」「味写」などなど・・・
糸井:社員が皆好きだから、いつも、今度のこのカメラはどうとか話をしています。写真って昔の楽器みたいな役割かもしれないですよね、「お前もギター弾くの?」っていうのに似てる気がする。
野口:コミュニケーションのツール?
糸井:3コードくらいなら押さえられる、っていうのと、写真好きなんです素人ですけど、ってなんか同じような感じがしませんか?
野口:します、します。上級者から超初心者まで幅広い、というところも、似ていますね。ところで、糸井さんご自身は、今でも毎日撮っているんですよね?
糸井:はい。でも、僕は今、ちょっとどうしようかなって感じでいます。忙しくて通勤路しか行ったり来たりしなくなったり、犬もだんだん年取ると出掛ける距離が短くなってきたり、同じような写真ばかりだけど今日と昨日は違うね、っていう感じになってきている。もっと、いろんな期待に応えたい気持ちもあるんですけど、なかなかできなくて。
野口:でも、ブイヨンの写真は毎日こつこつと。
糸井:もう、やらないと、宿題しないで先生に怒られるような気がして(笑)
野口:カメラ構えると、寄ってきちゃったりしませんか?そのへんの距離感が絶妙なんですけど。
糸井:うーん、その辺は前から意外と大丈夫だったですね。犬もこう、慮(おもんぱか)る、というか(笑) その辺は。
野口:『ほぼ日』にアクセスしたときに、必ず最初に見るところです。
糸井:でもね、同じような写真ばかり撮っているのは僕自身がよくわかっているんです。言葉を足しているからまだいいのかもしれない。写真だけだったら、変化を求めて、引っ越してたかも。
野口:それはおおごとだなぁ(笑) 普段出掛けるときは、いつもカメラは持って行く?
糸井:そういうときもあるけど、ケースバイケースです。
野口:写真とどう関わっていくのがいいか考え中ということですけど、あまり代わり映えしない写真でも、毎日淡々と撮り続けることにも意味があると思うんですが。
糸井:犬の写真を撮った以後の写真でいえば、僕にとって写真を撮るのは、誰かに喜んでもらいたい、というのが最大のモチベーションなんです。おじさんが手品やるのと同じ。ほらほらどう?って見せて、喜ばせたい。それが今はなかなかできないから。
野口:なるほど。確かにそれは負担が多そうですね。一方で、理屈抜きに"これは撮らなくちゃ""撮りたい"という衝動からシャッターを押すこともあると思いますが?
糸井:うーん、カミさんが「ちょっと貸して」って言って撮るものはそういうものが多いけど、僕はやっぱり手品なんだなぁ。ただ、今はほんとに他にやることが多くて、たとえばグループでどこかに行くでしょ。そんな時は、僕が撮るよりあいつが撮った方がいいなと、自分の写真は後回しになってしまうんです、まあいいかって感じで。
野口:写欲の波、というのもあるかもしれませんが。
糸井:そうですね、だから今日こうやって話をしたことがキッカケに、また写真撮ろう!っていう気持ちが高まるかもしれないです。
野口:それでも、やはり、手品おじさんのノリで?(笑)
糸井:そう。僕は、「いい写真でしょう」よりも「こんなの撮れちゃった!」というのが、いい写真だと思うし。
野口:ああ、それはちょっと、深い。写真の本質的なところかも。
■表現としての写真
野口:時間の流れの中で見る音楽、小説、映画に対して、写真は瞬間で見せるものですよね。その点では絵画や彫刻に近い。音楽家や小説家、映画監督など、時間で表現をするアーティストの中には、写真をクリエイティブのバランス役として捉えている人もいます。
糸井:はい。
野口:糸井さんは言葉の人、短いフレーズも文章も、読む時間が必要なわけで、その点は音楽や映像的かと。そういうところから、表現方法として、写真をどう捉えているのかな?と、興味があったのですが。
糸井:回答にならないかも知れないけど、カメラを持っているだけで"見ていい"ということになります。世界って自分の相似形ですからね。そんなに見るなよ、ってとこがあるんですよ。カメラを持つと、その壁がなくなって、見られるようになる。
野口:撮っていいよっていう許可証みたいな道具ですか?
糸井:そう、「まあカメラ持っているならしょうがないなぁ」と許してくれる。カメラは世界との垣根をなくすものとして、あるものかな。
■写真との距離感
野口:糸井さんのお話を聞いていると、カメラや写真は大好きだけど、そこにはまり込まないで、一歩引いて外野から楽しんでいたいんだ、というようにみえます。
糸井:そう、僕は、カメラって苦手なんです、っていうとことから始まっているので、それがずーっと続いている感じだけど、それでいいかなと。写真大好きと言っている同士が、幻想を語り合っているような状態に自分が入るのは、なんだか恥ずかしい。『ほぼ日』のところで言ったような「FM喋り」に近いような写真の世界は嫌なんです。
野口:だから、一歩引いた所から、写真で楽しんでる人を見て楽しんでいるのが、糸井さんなんですね。
糸井:だってね、社内の写真がどんどんうまくなっていくんですよ、ほんとに、これはもう見てて面白い。
野口:武井さんなんか、プロ級ですしねぇ・・・
糸井:彼はスタイリストだから、どういうスタイルで見せたいか?を意識している。表現そのものの中にコンセプトが入ってるんですよ。何を撮っているという以上に、自分をどう見せたいかっていう方向、服を選んでいるように写真が洗練されていってます。そういう変化を見ているのが、僕は面白いんです。
野口:そういう立ち位置が糸井さんらしいのかな。だからでしょう、写真を見る機会はとても多いですよね。
糸井:多いですねぇ、大好きです。写真展も写真集も見るのはすごく楽しい。撮ってる人の心にも興味が向くんです。グルスキーの展示とかみて「気分いいだろうなぁ」とか想像したり。
野口:写真集といえば、ちょっと脱線しますが、今回GRのカタログ撮影をお願いした操上和美さんの写真集「陽と骨」のタイトルは、糸井さんが付けたと聞きました。
糸井:そうです、光栄なことにタイトル付けてと頼まれて。それで、操上さんが写真を撮るときと同じような気持ちで、短い詩を作ろうと考えました。
野口:詩を作るようにシャッターを切る、操上さんらしいですね。
糸井:だから、あれば3文字の詩。ご本人も気に入ってくださったので、よかったです。
野口:写真を撮らなくても、いつもなんらかの形で写真には関わってきてるんですね。
糸井:写真って面白いのは、もういいやって感じはないんです。休んでいるという感じ、撮ってないときでも。
■糸井さんとGR
野口:GRを長く愛用していただいてますが、いろんなカメラを使う機会があったと思います。しっくりくるもの、どうもあわないもの、いろいろあったかと。
糸井:ありますねぇ、持った瞬間これはなぁと思ってダメなものもあったし、最初はいいように感じたけど、だんだん離れてしまったものもあるし。
野口:どのへんがポイントなんでしょう?
糸井:なんでしょう、一つはレスポンスかなぁやっぱり。
野口:GRでは「撮影者への良いフィードバックがある」を目標にしています
糸井:呼んだらすぐ応えてくれっていうのは、やっぱり基本ですよ。犬の眼にピントを合わせるために、マニュアルフォーカスも使ってみたりしますが、素早くそういうことに応えてくれるカメラがいいです。
野口:まさに!良いフィードバックは、レスポンス以上に操作性が重要だと思います。
糸井:ただ、今度のGRは、レスポンスでいえば、以前のが良かったかなと、感じるときもありました。
野口:スペック的にはそんな事ないんですけど、むしろ秀でてるはず。ただ、カメラ全体のレベルが高まっているので、それに慣れた感覚からすると、昔ほどのダントツは感じないのかもしれないな。
糸井:んー、なるほど。でも、"写り"は間違いなく良くなったなぁ、と実感してます。これはもう、これまでのモデルチェンジからみたら、飛躍ですよね。
野口:ありがとうございます
糸井:さきほど言いましたけど、ピントを合わせているという作業自体が、もうすでにディレイしているわけで、本当は、そもそも、そういう作業自体にストレスを感じるんですね。
野口:そこはカメラが使い手に頼っている部分ですね。
糸井:犬が元気なうちは、犬を撮るのが中心になる。その犬のいた景色、その犬がやっていたこと、すでにシャッター押した瞬間に、もう思い出を欲しがっている。撮り手は、せっかちですから。
野口:そうすると、糸井さんにとっての理想のカメラは、体の一部になって、存在さえ意識させないものですか?
糸井:でも愛着は持っていたい!どこかでフェティッシュなものは必要なんです。なくしたくないものを持ちたいという気持ち。見つからないときに、探さなくちゃと思うカメラでいて欲しいです。ビニール傘化しないようにしてくださいね。GRはそういう心配はないけど。
野口:はい、そこは肝に銘じてます!(笑)
糸井:GRが後の人たちを追っかけさせたのは、どんどんカメラの形をしなくなっていた時代に、カメラの形をしていたことだと思います。それは大発明だった。それは、この先も「カメラの形ってなに?」って考えるときの鍵になるかもしれません。そういう意味で、デジタルが生まれる前のカメラの進化を、今、もう一度学んでみることも、面白いんじゃないでしょうか。
野口:なるほど・・・ では最後に、これからのGRへの期待を一言お願いします。
糸井:そーだなぁ、GRという名前だけどカメラと全く違うもの、というのを見てみたい気がします。
■おまけ『糸井重里さん』
野口:糸井さんってナニモノ?って聞かれませんか?今朝、糸井さんに会うって言ったら、娘が「うちまで競争~」って(笑)。世代によって、糸井さんが異なる。
糸井:広告の仕事していなくても、コピーライターって今でも言われることあります。
野口:それはもう、だって、コピーライターという職業を糸井さんで知った人が多いわけですから。ご自身の原点はコピーライターという意識はあるんですか?
糸井:そういう時代もあった、ということです。今の重心は、"表現すること"よりも"表現して欲しいモノ"を考えることです。だから、コンテンツが重要だと言ってるんですね。コミュニケーションよりコンテンツが先なんです。
野口:そして、魅力あるコンテンツを作ることだけでなく、そのコンテンツが生まれる"場作り"に取り組んでいるんですね。
~取材を終えて~
「どう伝えるか?」よりも「何を伝えるか?」が大切。その「何」を育てる「場」としての『ほぼ日』の運営。そして、今、その「場」を、さらにオープンな町レベルに広げていくことで、よりリアルなつながりを強めていく挑戦。様々なことに同時多発的に取り組んでいる糸井さんですが、おそらくその乱雑さをも楽しみながら、未来に対してできることを、いつも考えているんだ、ということが伝わってきた取材でした。今回の取材でお聞きできた多くのヒントを、自分たちのこととして咀嚼しながら、このGR BLOGも続けていけたらいいなと思います。そのうちに、糸井さんが「ほら、どうこれ?こんなの撮れちゃったよ」って、自慢の写真を見せてくれる日も楽しみにして。
◆お気に入りの写真
毎日毎日、飽きもせずに撮っている愛犬の写真ですが、
ふとモノクロで撮ったら、性格がよく出たような気がしました。(糸井)
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糸井重里(いとい・しげさと)プロフィール
群馬県生れ。1975年TTC(東京コピーライターズクラブ)新人賞受賞。1980年代に「不思議、大好き」「おいしい生活」などの名コピーで一世を風靡。コピー制作、作詞、ゲーム制作、文筆など幅広い分野で活躍を続ける。1998年には「ほぼ日刊イトイ新聞」(略して『ほぼ日』)をインターネット上に開設。近著として、和田誠さんと糸井の共同編集で『土屋耕一のことばの遊び場。』が発売された。
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