GRist
GRist 曽根陽一さん
今回のGRistは、写真家の曽根陽一さんです。 曽根さんには「shoot with your angle」のサイトに、Caplio R2で撮影した「象」という作品を提供していただいたこともあります。
shoot with your angle
梅雨の合間、銀座のブランドショップの中にあるお洒落なカフェで、写真や雑誌のこと、森山大道さんとの出会いや作品発表の考え方などについてお話を聞いてきました。
■詩と写真
社員N(以降 N):曽根さんは、詩人を志している中で写真と出会い、写真家への道に進んだそうですね。
曽根(以降 そ):20歳の頃、書店に勤めていて雑誌コーナーを担当していたんですけど、時間があると「カメラ毎日」をパラパラと眺めていました。当時は奈良原一高さんのモノクローム写真などからすごいパワーを感じて、写真への興味が増していたときに、たまたまその中でワークショップ冩真学校・第三期生募集という広告を見つけて、申し込んでみたんです。
N:詩から写真へ?
そ:詩と写真とでは表現の仕方が全く異なる・・・という意味では確かにその通りなんですが、それぞれの表現の中で「気配を際立たせる」という点においては、詩と写真は似ている部分が大きいと感じています。だから、僕としては自然に写真の世界に入って行けました。 ・・・もっとも、詩を書くときは、どうしても部屋に籠ってうなりながら・・・になるので、単純に「外に出たい!」っていう欲求もあったんですけどね(笑)
N:そこで入ったのが森山大道さんの教室だったんですね。
そ:そう。森山さんのハーレーをストロボ一発で撮った写真なんか凄かったからね。
N:そこでは、どんなことを学んだんですか?
そ:新宿3丁目にあったイメージショップCAMPという森山さんたちがやっていたギャラリーに集まって、持ち込んだ写真を見てもらうんです。そこには一期生二期生も大勢いて、彼らからもズバズバと厳しい講評を言われましたね。
N:それは相当な緊張感でしょうね。森山さんは?
そ:森山さんはあまり喋らず、ニコニコしながら煙草を吸ってそれを聞いていましたね。
N:なんかそのシーン、イメージできるかも(笑)
そ:そこに決まってよく現れたのが荒木さんや篠山さん達でね。いろんなコメントをしてくれる。それに「これ撮ったの誰?」みたいに急に来るから気が抜けない。
N:なんて贅沢な!
そ:そう、だから、教室では毎週8×10で50枚作品を出さなくてはいけないとか、今考えても結構タフな課題があって、それはそれで鍛えられたんですけど、そういうことよりも、ここで本物の写真家と直接話をし、彼らの匂いや雰囲気を感じ取れたことが、一番大きな収穫だったと思います。
■スナップ写真は被写体とのCorrespondence
N:写真集「GR SNAPSⅡ」に、曽根さんはご両親の写真を出していただきましたが、なぜこの写真を選ばれたんでしょうか?巻末コメントに、「写真とは事物を凝視することで生まれる、Correspondence (照応)」ともありましたが...
そ:その質問、よくされるんです(笑) 物事をしっかりと見ていると、撮る側と撮られる側で共鳴し合う瞬間を感じるんです。それを、Correspondence(照応)と表現しました。 写真に Correspondenceを記録するのが僕のスタイル。スナップ写真のシャッターチャンスと言ってもいいと思います。 母親が入院して親父が見舞いに行った時の写真です。 普段、親父はすごい亭主関白なんですが、この時の親父はベッドのそばで小さくなって母と目を会わせないように静かに微笑んでいた。僕がカメラを持っていたんだけど、それを二人とも意識をしないようにしていたんですよね。会話もないその場だったけど、僕と両親の間に、「写真を撮るよ」「わかっている」という気持ちがシンクロした時間を感じました。だから自然にシャッターを押せた。「SNAPS」という写真集に一枚写真を出すことになったとき、真っ先にこの1枚が頭に浮かびました。
N:うーん、感覚的には理解できますが、その気配を感じるというのは簡単なことではないように思います。それが写真家の感度、センスと言われてしまえばそれまでなのかもしれませんけど。
そ:いや、もっと普通のことなんですよ。例えば僕が大きな植物公園に入って行く。そこにはたくさんの花が咲き乱れてる。でもその中で、僕はまっすぐに一つの花に近づいていく。そしてカメラを構えてシャッターを押す。その一連の中に理屈やロジックはない。ただ、その花が撮ってくれと言っていて、それを感じるだけなんです。
N:それを感じられるようになる?
そ:歩くことと撮影することはとても似ています。自分と波長が合うものとの出会いです。たくさん歩けば、たくさん感じられるようになってきますよ。
N:なるほど・・・歩くことで出会いも増える。その中から、同調するものを発見できる・・・ということですね。曽根さん流スナップ写真は、被写体との照応。ちょっとわかったような気がしました。
■DRUG(ドルーク)にかける思い
N:曽根さんは、定期刊行物の「DRUG」を発行されています。参加者がページを買って作品を掲載するというスタイルのユニークな写真集ですが、曽根さんがこの本に取り組み続ける意味はなんなのでしょうか?
そ:撮ったものをすぐに印刷した形で世に出して行きたい、というのが最初のきっかけであり、今もそれが大きな理由です。 ふつう、写真集にしても写真展にしても、ある期間撮り貯めて、選りすぐり、練り上げて、時間と手間をかけて出して行くものですよね。だけど僕は、一瞬を切り取ったその場の感覚を、生のまま出して行くことに、とても大きな意味があると思っているんです。
N:なるほど。よく、写真集はアルバム、写真展はライブ、と例える人がいますが、写真展以上にライブな形が、曽根さんにとってのDRUGなのですね。
そ:そう。だから僕は、あえて締め切りの一週間前から撮り始めるんです。全ての芸術の中で、写真だけ異質なことがあって、それは「修正できない」ということ。見えるものしか撮れないのが写真です。その修正できない面白さを表現できていければいいなと。
N:だから、毎号、心地よい緊張感が維持できているんですね。是非もっとたくさんの人に見て欲しいなぁ。参加方法もユニークですよね。モノクロ2ページだと1万4千円で参加できて、完成冊子14冊を入手できる。それを定価千円で販売すればちょうど元が取れる、というわけですね。
そ:多くの人に参加して欲しいと思ってます。
『DRUG』...「自己責任においてページを買い、自己責任において作品を発表する」スタイルで発行する写真雑誌。現在季刊。
DRUGはラテン文字表記のロシア語でドルーク(ДРУГ)と読み、「親友」「友人」の意味。
購入方法、参加方法など、詳細はこちらまで → http://ys-ode.net/drug/index.html
■曽根×GR
N:曽根さんとGRとの出会いは?
そ:デジタルはIIからです。カメラ雑誌のテストレポートで使ったのがきっかけかな。これは仕事につかえるとすぐに感じました。今は、IIIが僕のメイン機材ですが、あとはGXRに A12 50mmのユニットを付けて、モノクロ、アスペクト比1:1が基本です。 液晶ビューファインダーを使ってウエストレベル風に撮ったりもしてます。
N:GRでは植物の写真を撮り続けているとお聞きしました。
そ:日中シンクロで疑似夜景の効果を出して撮ると、花が気持ち悪いくらい妖艶に怪しく撮れるのです。それがいい。
"Naked flowers"
N:具体的には、どんな設定にするんでしょうか?
そ:ISO64固定、EV-2.0、ストロボ光量は-1.0で日中シンクロです。後処理は、フォトショップで気持ち暗めにしてコントラストをちょっと上げる程度。
N:それであんな写真が撮れるんですか。
そ:それにはGRが一番なんです。シャッター速度全てでストロボが同調するのが必須ですが、一眼レフの内蔵ストロボだと高速シャッターで同調しないので使えないんですよ。
N:なるほど・・・こんどチャレンジしてみよう。
■スナップ写真がもっと楽しくなる
N:最後に、スナップ写真を楽しむポイントを一つ教えてください。
そ:先にも言いましたが、たくさん歩くこと、そしてたくさん撮ること。そこで撮った一枚の写真は、世界でただ一つの記録です。まがっていてもぼけていても、シャッターを切らなければ残されない一瞬。うまく撮ろうという欲を捨てれば、誰でももっと写真を撮ることができると思います。そして、その中から、きっと「あ、今、被写体と一体になった」と思える瞬間が見つかるはず。そうなったら写真がもっと楽しくなりますよ。
N:ありがとうございました。今日はカメラを鞄にしまわずに、歩いて帰ろう!(笑)
■お気に入りの一枚&コメント
目黒通り沿いの古道具屋の前に立ち、吸い込まれるようにシャッターを切る。1980年頃夢中で聴いていたThe Clashの音が、当時の記憶と重なって脳裏を凄まじいスピードで駆け巡る。カメラは記録と記憶を心でつなぐ、時空魔法精製機のようだ。
"London Calling" F3.2 1/200秒 ISO100 プログラムオート -0.3補正 WB 屋外 GRDIII
■取材を終えて
写真に対する真摯な姿勢の中に詩人の繊細な感性が漂う曽根さんの語り口にすっかり魅了されました。「外に出て、同調するものが見つかる、そうすればもっと写真を撮りたくなる」という曽根さんのメッセージが、一人でも多くの方に伝わることを願いながらまとめた今回のGRistでした。
■プロフィール
1953年埼玉県川口市生まれ。私立本郷学園高等学校普通科卒業と同時に、詩と詩論の『フォーカス』文芸同人誌『沈黙と饒舌』『海とユリ』映像同人誌『鯤』等で詩や写真を発表する。アテネフランセ仏語科中退。ワークショップ写眞学校・森山大道教室3期修了の後、コマーシャル撮影のアシスタントを経て1979年独立。ワークショップ曽根塾主催、銀座写真塾講師。写真同人誌「DRUG(ドルーク)」主宰。
http://ys-ode.net/ http://facebook.com/yoichi.sone
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