GRist
GRist 菅原一剛さん
今回は、写真家 菅原一剛さんの登場です!
菅原さんは毎日GR DIGITALで撮った空をご自身のBLOGで掲載を続けています。
今日は、そんなところからお話を聞かせていただこうと、中目黒の事務所を訪問しました。
■8年間欠かさず撮り続ける「今日の空」
社員N(以下 N):いつも、菅原さんの撮る「今日の空」を楽しませてもらっています。空の表情も面白いですけど、「あ、今日は弘前にいるんだ」とか、「おー知床からだ!」とか、そんな一剛さんフォローもできますね。これは、どのくらい続いているのですか?
菅原(以下 菅):2002年の元旦から始めたので今年で8年目、あと2年で10年≒3650枚になりますね。
N:すごいなぁ、毎日欠かさず、ですよね?嵐のときも、風邪引いたときも・・
菅:そう、でも忘れていて日が暮れてから慌てて撮影したことも数回あるんですよ。
N:それは焦っちゃう!?
菅:そう、まずいっ、忘れてたっ!て(笑) でも、最近のデジタルカメラは高感度でも絵になるから、暗くなってもなんとか撮れるので助かります。GR DIGITALもIIIになって高感度の画質が格段に良くなりましたから。
N:そこまで継続できる力って、何なんでしょうか?
菅:デジタルカメラって、実はそんなに好きになれなかったんです。銀塩の乳剤から染み出る湧き出すような深み、奥行き感が好きなんです。光をフィルムで取り込み、印画紙にあてる、浮き上がったプリントを光に当てて鑑賞する。光の反射で成り立つ世界です。
N:ゼラチンシルバーへのこだわり、ですね?デジタルはまだ?
菅:デジタルはとてもフラットです。画像データもプリントもね。でも、ここ数年でデジタルもとても良いところまで来ていると思います。
N:そんな菅原さんがデジタルをどのように使い始めたのですか?
菅:デジタルを使い始めて間もないころ、明かりを落としたオフィスの中でマックのディスプレーだけが点いていて、そこには日中の空の画像が写っていたんです。それをみて、「あ、これだ、デジタルは反射ではなく入射を捕らえ、すべてデジタル化される。プロセスが銀塩と異なるのと同じように、鑑賞スタイルも別にあるんだ」と感じたんです。反射ではなく、放射、ディスプレーでの鑑賞という手も。そのときから、僕の中でのデジタルカメラは、銀塩と並ぶ居場所ができたと思います。写真をもう一度光らせる、というのは僕の中での一つの発見だったのです。
N:もう一度光らせる、っていうのが面白いですね。
菅:それでね、光を見るために空を撮る、8年間続けていると、光に対する意識が強くなるんです。
N:光に対して敏感になる?
菅:そう。昔は昨日の天気を忘れることもあったのだけど、それは光を見る仕事をしている者には致命傷でしょ。それがね、毎日空を撮るようになってからは、絶対そんなことはなくなったし。
N:その辺りに菅原さんの写真に対する考えがあるのでしょうか?
菅:というより、光を撮るのはとても根源的なものだから。
■写真との向き合い方
菅:写真に対する考えといえば、そこにあるものを肯定していく、そして自分の中に取り込んでいくことに言い訳しないということですね。先ほどの銀塩とデジタルの話でも、古いものを賛美して新しいものを切り捨てたくはない。「俺はパソコンやらんのだよね」なんていうオヤジってカッコ悪いからなりたくないし(笑)
N:今ある道具を駆使して、今そこにあるものを自分の中で肯定して切り取っていくと。
菅:キャパが撮った戦時下の一般人の写真なんて、正直胸のつまるような光景がたくさんありますよね。でも、それを肯定して受け入れることで、表面的な景色だけでなく、その中から出てくる希望が伝わっても来る。それが家族の愛だったり、子供の将来だったりと。常に心に思っていることは、「本当のことは良いことばかりではない、だから綺麗ごとだけの写真は撮りたくない」という気持ち。かといって、汚いだけでは下世話になる。片側だけが物事の本質ではないと。
N:たまたま見えた側面だけ見て、わかった気にならないこと、ということですね。
菅:本当のことを忘れてしまわないために、毎日空を撮ることも、役に立っていると思いますよ。
N:ここ数年は、GR DIGITALを愛用いただいています。
菅:GRはレンズ性能が良く、ブルーの発色がとても気に入っています。特に空、曇って、色・デティール・濃淡とひとつとして同じではなく、移り変わっていくものだから、カメラにとってはとても手ごわい被写体です。カメラの実力が試されてしまうのですけど、GR DIGITALはそんな空の毎日の表情をうまく捉えてくれるので、愛用しています。
■世界で一番綺麗なゴミ
N:カメラ雑誌で連載中のフォトエッセイ「DUST MY BLOOM」(デジタルフォト)では、弘前のリサイクル工場のゴミの山を撮っていますね。なんでゴミを?どこに魅かれたのでしょう?
菅:まず最初にゴミの山を見たとき、「綺麗だ!カッコいい!」と思ったんです。で、「なんでカッコいいんだろう?」と考えてみた。私たちにとってゴミはよごれて汚いものだけど、リサイクルをしている人たちにとっては、ゴミは商品、大切な材料なんですね。だからとても大切にしている。それが工場という現場、ライブな場所の中で生き生きと見えてきたんですね。元来、私はモノが生まれていく瞬間が見られるファクトリーが好きだということもあったと思います。
N:写真集のゲラ刷りを拝見しました。感動しました。こういうのって、企画先行しちゃいがちな素材でもあると思うのですが、この「DUST MY BLOOM」は、何度も見返したくなりました。正直いうと、ゴミの写真集なんて家に置きたくはないよなぁ、と思っていたけど大間違い、目から鱗でした。(笑)
菅:この写真集はアートディレクターも自分でやりました。自分の写真集に自分で"寄稿"するような感じでまとめていったんですよ。最後まで一人称で貫けたことに、とても満足しています。
N:菅原さんは写真のテーマとかをどのように設定されるのですか?
菅:僕はテーマやコンセプトを決めて写真を撮っていくのが嫌いです。想像の中で作り上げていくと、どんどん嘘になっていく。現場、現実の世界に触れ合うことを大切にしたいから。触れ合いながら作られていけばいいと。
N:やはり、"ライブ"なんですね。
■湿板写真から映像監督まで
N:先ほども言われてますが、ゼラチンシルバーへのこだわりが強い。湿板写真への取り組みも、その一つの表れですか?
菅:昔はよかったとか、モノのせいとか時代のせいにしたくないのです。だから、あえて今、古典技法に取り組んでいます。それを知れば知るほど、最新の技術がわかってくるのです。
N:一方では、映画「青い魚」では撮影監督と撮影を、アニメ「蟲師」オープニングディレクターをするなど、映像関連の活動もされていますよね。写真と映像の立ち位置の違い、気持ちの切り替え方などに興味があるのですけど。
菅:自分の場合、動画もあくまでも写真を中心とした創作なんです。常に写真家として取り組んでいる。ですから、気持ちとか切り替えはしないのです。自分にオファーがくるというのは、ムービーのカメラマンとしてのアウトプットなど求められていないと思いますしね。
N:なるほど。
■東京観光写真倶楽部
N:ユニークな名前の集まりですが、"東京を観光しながら写真を撮る倶楽部"なんですよね?発端はなんだったのですか?
菅:4年前に僕の展覧会のオープニングパーティの2次会に集まってくれた友人たちと、「今度みんなで写真を撮りに行こうか?」と盛り上がったのがきっかけです。
N:では、ネーミングも一剛さんが?会員も増えているようですね。
菅:ぶらぶら散歩しながら写真を撮って、うまいもの食べて、語り合う。観光気分で写真を撮ろうってね。それと、観光というのは「光を観る」でしょう?写真につながりますよね。今では会員数100名くらいに・・・初期のメンバーが運営してくれています。楽しいですよ。
N:あ、なるほど!
菅:GRのユーザーは多いです。まあ、僕自身がGR DIGITALユーザーだから、ということもあるのでしょうけどね(笑)GRに外付けの光学ファインダーを装着している人が圧倒的に多い。是非一度、遊びに来てください。
N:なんだか、質問攻めにあいそうですねぇ(笑)でも楽しそうだなぁ・・・
■写真展「dansa」"とてもとてもありがとう" RING CUBEで開催
N:いよいよ開催ですね。何かメッセージを!
菅:干ばつという被災地であるケニアを訪問して撮影してきました。でもね、それを無理やり見せつけてもしょうがないなと。ケニアで出会った多くの大人、子供から、「ダンサ!」「ダンサ!」と言われたんです。聞くと、真心をこめて感謝の気持ちを伝えたいときに使う、お礼の言葉なんだと知りました。その言葉を今回の写真展のタイトルにしました。
N:それで、サブタイトルが「とてもとてもありがとう」なんですね。
菅:この世界はつながっている、当たり前だけど実感を持って伝わっていないことを、伝えられたらいいなと思います。昨年は水害のあったバングラディッシュに行ったけど、その時は見た目にも強烈なものがあったので、逆に一歩下がって撮影しました。しかし、今回は中に入って行き、自分も入り込めたと思います。だから、昨年の写真と比べると、とても主観的な作品になっています。
N:バングラディッシュの写真は、一歩下がった客観性が宗教画のような印象を与えたように思います。今回はもっとカジュアルな仕上がりということですね。
菅:そう、バングラディッシュでは、「向かい合わなければいけない」という意識があったが、今回は「感動」から入って行けた。写真の選定では、RING CUBEというギャラリー空間の特徴も意識しました。あの、円形の空間では徒に格式ばらないで、そのカジュアルさを素直に出した方がマッチするはずだと。写真もそのような選定を意識しました。静かで深い写真から、一転して明るく元気な写真です。だからみなさんにも、是非カジュアルに見て欲しいですね。
写真展の詳細はこちら
■写真家 菅原一剛の構え方
N:菅原さんの様々な活動のスタンスって、とても素直でストレートな感じがします。写真も、スッと自然に構えて撮ったような・・・
菅:僕は、斜に構えて世の中を斜めに見るような生き方が嫌いなんです。アウトローにはなりたくない。でも、じゃあメジャー志向?というと、それも違うんですね。広い道の真ん中を、ニコニコ笑いながら、自分のペースで歩いていければいいなと、いつも思っています。
N:写真を通しても、そんなところが伝わってくるような気がします。
菅:いや、僕はもっと良い写真が撮りたい、といつも思っています。
■取材を終えて
菅原さんとお話をするたびにいつも感じるのは、写真、カメラ、多分生き方に関しても、持っている軸がぶれてない、そんな気持ちよさです。「今あるものを肯定して切り取っていく、というお話を聞いてその姿勢が僕たちの心を動かすのだなぁ」と改めて思いました。
菅原さんは、渓流釣りが大好きで、北海道には3年続けてサケ釣りにも挑んでます。僕も同じ趣味なので、来年は一緒に釣りに行こう!なんて話でも大盛り上がり。ロバート・キャパ、アーヴィング・ペン、開口健の話など、僕も大好きな話題で脱線を繰り返しつつ、あっという間に終わった取材でした。これからも、多岐に渡る活躍で、僕たちを楽しませてくれること必須ですね!
来年発売する写真集「GR SNAPSII」にも、空の写真で参加していただています。ご期待ください!その前に、まずは写真展を見にきてください。きっとたくさんの元気がもらえると思います!
<菅原一剛さんお気に入りの一枚>
「ケニアのガルバチューラという電気もガスも水道もない街から、ナイロビに向かう途中の道で、ひと組の親子に出会いました。ぼくにはその親子のすがたが、アフリカの大きな夕暮れ時の空の下で、とても大きなものに向かって歩いているように見えました。」
菅原一剛(すがわら いちごう)プロフィール
1960年生まれ。鎌倉在住。 大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、早崎治氏に師事。 フランスにてフリーの写真家として活動を開始して以来、数多くの個展を開催すると同時に、広告写真およびにCFなども手掛ける。 撮影監督を務めた映画「青い魚」は、1997年ベルリン国際映画祭にて正式招待作品として上映された。 2005年には、アニメ「蟲師」のオープニングディレクターをつとめるなど、その活動領域は、従来の写真の領域を越え、多岐にわたる。 2004年フランス国立図書館に作品10点が収蔵。 2005年6月、ニューヨークのPace/MacGill Galleryにおける「Made in the Shade」展に、ロバート・フランク氏などとともに出展。 2008年書籍「写真がもっと好きになる。」を上梓。 2008年写真展Sundle Ghona(美しい村)を開催。 2009年写真集「DUST MY BROOM」を上梓。 オフィシャルサイト www.ichigosugawara.com |
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