GRist

GRist 湯沢英治さん

2008-09-30

こんにちは、みにゅう です。

今回はアートとサイエンスが融合した写真集「BONES 動物の骨格と機能美」を撮影された湯沢英治さんの登場です。
この写真集はすべてGR DIGITALで撮影されたとのこと。

恐竜発掘が趣味の みにゅう はもちろん骨も大好き。
とても楽しい取材となりました。
湯沢英治

■BONES制作のきっかけ

みにゅう(以降 み):まずは、写真集「BONES 動物の骨格と機能美」を制作したきっかけについて教えてください。

湯沢さん(以降 湯):自分はシュールレアリスム、バロック絵画といったものが好きなんですが、中世の絵画アイテムとして骨はよく使われるんですね。
だから骨という対象について抵抗は無かったんです。

ある時、動物園に行きまして、そこでこの本の共著者である東野(あずまの)さんがたまたま展示していた骨格標本に目がとまって、GR DIGITALで撮影してみたんです。
そこにいらした東野さんもGR DIGITALに興味があったらしく、すぐに意気投合しました。
家に帰ってプリントしてみると、すごく面白い表現になったんで、もっといろんな骨格標本を撮りたくなった、というのが始まり。
プリントした作品を東野さんも気に入ってくれて、一緒に作品をつくることになったんです。

み:2人ともGR DIGITALが好きだったという偶然が、この写真集につながっているとは嬉しいですね。

Yuzawa-A.jpg

■骨の魅力

湯:それまでは特に骨に関して興味があった訳ではないんです。
骨なんて、普段手にしたり目にする機会があるものじゃないですからね。

み:骨のどういうところに魅力を感じたのですか。

湯:ゆがんだ美しさと、ディテールですね。
非人工的、有機的で、ゆがみやムラがあることの魅力。
直線や平面ではない、人間が関与しないで作られた面白さがあるんですよ。

み:ほとんどが黒バックに浮かびあがるように撮影されていますね。
宇宙に浮かぶ星のようにも見えます。

湯:立体感が出るように、すべての写真は自然光で撮りました。
太陽の状態は日々刻々変わるし、撮影した場所も一カ所じゃないんです。
大変な面もあるんですが、そこに面白みもあります。
条件は様々ですが、同じトーンに仕上げるように自分の感覚でコントロールしています。

写真の面白いところは、撮影したその時々の状況によって、偶然が良いほうに働くことがあるんですね。
オランウータンの脊柱の写真では、わざと背景にも光を反射させています。
ちょっとした違和感がある写真になりましたが、そういう写真をを入れた方がリズムが生まれて単調じゃなくなるんです。

コントラストは画像処理を施して高くしています。
アングルや暗さによって見えなくなってしまう所もあるのですが、それによって造形をコントロールしているというのが作家の仕事でもあります。
全部をはっきり見せようとする「図鑑」とは異なった、芸術性のある表現を意識しました。

み:骨格の写真としてこれまでになかった表現ですよね。
そこが新鮮に感じました。

Yuzawa-B.jpg

み:レイアウト等で苦労されたところはありますか?

湯:写真集として構成するにあたって、芸術性を出したいという面と、学術的に筋の通ったものにしたいという面とがあり、両者の間で悩ましいせめぎあいがありました。

初期のアイデアでは、生物の種類にこだわらずランダムに並べると形の面白さが際立っていいんじゃないかという案もあったのですが、
系統立てて生物種が並んでいた方がわかりやすいという意見もあり、最終的にはその間でちょうどいいバランスがとれたものになりました。

まずは写真を並べて造形を十分に味わってもらい、解説は後にまとめるという風に、解説文を置く位置にも工夫しました。

み:とても沢山の種類の骨格標本があるものですね。

湯:複数の公的施設や個人の方のご協力があり撮影させていただきましたが、特に野毛山動物園は撮影に適したきれいな骨格標本が多いんです。
骨格標本に詳しい東野さんと一緒に写真集を制作できたことで、いいものができました。

撮影を始めてから出版まで2年くらいかかってるんですが、じっくりと時間をかけて多数の骨格を撮影できたことも内容の充実につながっています。

■GR DIGITALを選んだ理由

み:話は変わりますが、写真撮影にあたってGR DIGITALを選んだ理由は。

湯:まずは自分で求めてGR DIGITALを手にしたということですね。
撮影の主力は一眼レフカメラだったんですが、銀塩フィルム時代からGRには興味があって使ってみたかったんです。
ズームではなくて単焦点なところが自分の使い方に合っているし、解像力の評判が高かったですから。
それで、最初に使うデジタルカメラとして選択したのがGR DIGITALだったんです。

使ってみて、素晴らしいカメラだということがすぐにわかりました。
ボタン1つで、1.5cm から遠景まで撮影できる、この幅の広さ。
ワンクッションが無く、肉眼で見たものがそのまま撮れるという、カメラの理想に近いですね。
見たまま、感じたまま撮れるのがすごい。

対象をどう撮ろうかと考えた時に、自分はインスピレーションで動くタイプなので、自分の感覚にマッチしたカメラが一番です。
持ち歩くので、このサイズがまた素晴らしい。

み:撮影機材と、設定について教えていただけますか。

湯:この写真集はほぼ全ての作品をマクロモードで撮りました。
テレコンバージョンレンズをつけた時もマクロモード。
設定は以下のようにしています。

 ・画質・サイズはJPEG最高画質(F3264)
 ・絞り優先モード(A)
 ・ISO64
 ・オートブラケット・露出補正±0.5EV
 ・画像設定はノーマル
 ・フォーカスはスポットAF
 ・AFターゲット移動も便利でよく使います
 ・三脚使用

撮影はカラーです。オートブラケットを使って被写体あたり3~6カット撮り、コントラストが狙い通りに出るものをセレクトして白黒化します。
さらにプリントして画質を調整します。

Yuzawa-C.jpg

み:湯沢さんが目指している写真のイメージがあれば教えてください。

湯:骨という対象を通して、造形美のデザイン性を持つ写真集を作りたかった。
目指したのはグローバルな、全世界共通のテーマ性をもつもの。
また、時間がたっても変わらない、普遍的なもの。そんな作品を残したいですね。

今回は骨をテーマにした写真集になりましたが、骨にこだわってるつもりはなくて、僕にとっては女性を撮るのも、骨を撮るのも、造形美を表現するという意味ではまったく同じなんです。

写真の面白さっていうのを突き詰めていくと、「気配」とか「空気感」とか「造形美」というものを表現し伝えたいなと思うんです。
それを写し撮ってくれる力のあるGR DIGITALを手にできたってことはとてもラッキーなことでした。

■GR DIGITAL に望むこと

み:GR DIGITALについて望むことはありますか。

湯:僕は初代のGR DIGITALを使っているんですが、本体の機能にはもう十分満足しています。
周辺の機能として、スタジオでストロボを使いたいので、銀塩カメラのGR21にあったようなシンクロターミナルがあるといいですね。
それから、テレコンバージョンレンズをつけるとかっこいいので、つけたまま収納できるケースが欲しいですね。

■メッセージ

み:最後にGR BLOGの読者にメッセージがあればお願いします。

湯:僕も東野さんも、この本のおかげで「骨の人」になっちゃった。(笑)
確かに骨に詳しくはなったけれど、自分は「アート」の人だと思っているので、まずは造形美として写真集を楽しんで欲しい。
次の作品構想については秘密ですが、「骨の人じゃないんだ」と思われたいですね。

み:ありがとうございました!

■お気に入りのワンショット!


食肉目 クマ科 ホッキョクグマ Ursus maritimus 頭蓋 背面

数ある中で我が家に額装してあるお気に入りの作品です。
光、闇、線、質感と、このデザインすべてに奥行きを感じる一枚。

■取材を終えて

インタビューは進むほどに盛り上がり、ここには書ききれない、撮影の苦労話なども沢山聞かせていただきました。
マニアックな話題に脱線することもしばしば。(^_^;

対象がなんであろうと、造形の美しさを求めて写真を撮る。
今回はそれがたまたま骨だった、というアーティスト精神が伝わってきました。
湯沢さんのホームページには、骨以外の素敵な写真も展示されていますのでぜひご覧になってください。
次はどんな対象をテーマにした作品を撮影されるのか、とても楽しみです。

湯沢英治プロフィール

湯沢 英治(ゆざわ・えいじ)
1966年神奈川県生まれ。海外の写真集やファッション誌を通して写真に興味を持ち、独学で撮影技術を学ぶ。広告、雑誌の分野でカメラマンとして実績を積むかたわら、シュールレアリスムをテーマとした作品の個展も多数開催している。

ウェブサイト http://www.eiji-yuzawa.com
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