ワイコンレンズの画質と活用術

こんにちは。ふーです。
GRシリーズと言えば、初代GR DIGITALから現行のGRまで、オプションにワイドコンバージョンレンズをご用意していますが、カタログ等での扱いも小さく、あまり目立たない存在であることは否めません。
実はワイコンレンズもかなり画質にこだわって設計されているのですが、なかなかお知らせする機会もありませんでした。

ということで、設計者の声でその魅力を紹介することにしました。画質への想いや、活用のポイントについて、熱く語ってもらいました。ではどうぞ！

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みなさん こんにちは。
リコーでカメラの光学系の設計や評価を担当している谷本と申します。
技術的な内容の記事のリクエストがありましたので、今回は雑誌等でも過去にあまり取り上げられたことが無いGR用のワイドコンバージョンレンズについてお話しようと思います。

まずカメラ用のコンバージョンレンズ（またはコンバーター）についてですが、一般的には撮影レンズの前または後ろに装着して焦点距離や画角を変化させる作用を持つ光学系のことを指します。
撮影レンズの後ろに装着するリアコンバーターは、PENTAXの交換レンズ用でしたらこちらのように、ほとんど全ての製品が焦点距離を1.4倍や2倍に伸ばす"テレ"コンバーターになると思います。対して撮影レンズの前に取り付けるタイプでは、こちらのGX200用のTC-1やGR用のGW-3のように テレ・ワイドどちらのコンバージョンレンズも存在しています。

レンズの前に装着するフロントコンバーターはリアコンバーターとは異なり アフォーカルな光学系となっています。"アフォーカル"とは聞きなれない用語だと思いますが、一言で簡単に説明すると、無限遠の物体に対して結像作用を持たない（＝焦点距離が無限大）光学的な特性のことです。したがってアフォーカルレンズに入射した平行な光線束は平行のまま射出することになります。それでは何も変化せず意味がなさそうですが、倍率は変えることができるのです。つまりアフォーカルな光学系に拡大作用を持たせた場合は"テレコン"に、逆に縮小作用を持たせた場合は"ワイコン"として作用するわけです。

例えばGV-1のような外部光学ファインダーもアフォーカル光学系の一種ですが、人間の眼の光学系に対してGV-1はワイコンとして働いていると言えるでしょう。

さてGR用のワイコンに話しを戻しますと、GRユーザーのみなさんが一番知りたいことは「ワイコンを使うとどの程度像性能が変わるのか？」ではないでしょうか...。もっと端的に言えば「どの程度像性能が劣化するのか？」でしょう (^_^；。

撮影レンズの性能を評価する指標の一つであるMTFのグラフはカタログやこちらに公表されていますが、GR＋GW-3のMTFを設計中央値で同様に計算すると以下のようになります。

みなさんどのような感想を持たれましたでしょうか？
コントラストへの影響が大きいと言われる15本/mmのMTFは中心から周辺まで十分な値を維持していると思います。また解像度への影響が大きいと言われる45本/mmのMTFは、さすがに最周辺部では低下しますが、中間像高のT方向は全体的にワイコン無しのオリジナルの値より低下するものの、R方向ではオリジナルの値を上回っている箇所も部分的にあり、平均をとるとオリジナルより1割から数割下回る値になります。

グラフ全体からこの光学系の写りを想像すると、中心から周辺に向かってなだらかに解像は低下していくが コントラストは画面内全域で十分にある...と言った感じで、既にGW-3を使われている方には納得がいくMTF特性ではないでしょうか？

続いて、GRでワイコンを使う場合の裏ワザや注意点について書きたいと思います。

・設定
今までのGR DIGITALと異なり GRではワイコン装着時の自動検知機能が無いため、メニューのセットアップで [コンバージョンレンズ]→[WIDE]　を手動設定する必要があります。設定のし忘れや戻し忘れをすると、EXIFに記録される焦点距離情報が実際と合わなくなるため、ワイコンを脱着する際にはチェックするようにしてください。

・手ブレ防止効果
ワイコンを装着すると両手で構えやすくなるため手ブレを抑えやすくなります。左の掌の上にワイコン＋アダプターGH-3を載せるようにして下から支え、右手はシャッターボタンを押すことに集中するとより低速シャッターでもブレない打率が上がりますのでお試しください。

・静音化
GRのシャッター音は一眼レフカメラなどと比較すると十分小さいのですが、機械的な音なので極々静かな環境では聞こえてしまうこともあります。
ワイコンを装着するとアダプターGH-3とワイコンで鏡胴ユニットを囲む形になるため、シャッター音が体感レベルでは半分以下の音量になります。もちろんGH-3とフィルターなどでもOKですが、より厚いガラスで蓋をするワイコンの静音効果が一番高いようです。

・最短撮影距離の短縮
既にGR BLOGで取り上げられたこともありますが、オリジナルの状態よりもワイコンを使った方が最短撮影距離が短縮されて、最大撮影倍率も大きくなります。
具体的にはオリジナルの状態で最短撮影距離は像面から約140mmで撮影範囲は約120㎜×80㎜ですが、ワイコン使用時は同約110㎜・約90㎜×60㎜となります。これはワイコン使用時には焦点距離が短くなるにもかかわらず、フォーカス群の移動量は変わらないことに起因しています。またGRでは全体繰り出し方式になっており、ワイコン使用時の撮影レンズ全系におけるフォーカス群のパワーが相対的に大きいことも効いています。

以上ワイドコンバーターに関する情報、楽しんでもらえましたでしょうか？
歴代のGR DIGITAL同様、GRでもぜひワイコンでの広角撮影を楽しんで下さいませ。

投稿者 ふー | TrackBack(16)